
リーダーとしてビジネスを牽引する男たちが愛読する本&愛用するメガネ。そこには、日々、厳しい競争の中で奮闘する彼らの思考法やビジネス哲学が宿っている。

Profile
フィンランド航空(フィンエアー)
日本支社長
永原範昭氏
会社勤務を経て、’85年より航空業界へ。エアインディアでエアラインの基礎である予約・発券・空港業務を学ぶ。’90年、ニュージーランド航空に移籍。新規路線の立ち上げに携わるほか、空港・営業・マーケティングでマネジメント職を担う。2009年、営業本部長としてフィンランド航空に転職。’14年より現職。日本路線の拡大戦略に注力。ヘルシンキ〜成田・関空・名古屋路線の増便と、福岡・札幌の新規路線の就航を実現する。
歴史を動かした”ナンバー2”に共感
日本に最も近いヨーロッパという立地を活かして、東京、名古屋、大阪、福岡への定期便を運航し、さらに札幌にも就航することを発表して注目を集めているフィンランドの航空会社「フィンエアー」。その日本支社長を務める永原範昭氏が今回の”リーダー”だ。
時代小説はビジネスマンの生き方への示唆に富んでいる。これは本連載でもたびたび語られてきたことだが、永原氏もそう感じているおひとりのようで、「ビジネス人生に影響を与えた本は?」との問いかけに司馬?太郎の名著『竜馬がゆく』を挙げてくださった。
本書の主人公は言うまでもない。薩長同盟の締結に奔走し、倒幕への道筋をつけ、大政奉還へと導いた幕末維新のヒーロー、坂本龍馬である。その生涯に魅了される経営者は多いと聞くが、永原氏自身は果たして龍馬のどんなところに影響を受けたのだろうか?
「龍馬に感じられるナンバー2の美学です。ビジネスにおいても二番手がしっかりしていれば、トップが安心して行動できるし、組織も安定するでしょう」
確かに、龍馬は革命側のナンバー2だ。そして、部下を得て大事を成した後も、自分は表舞台に出ようとせず、人に手柄を譲るような爽やかさを持っていたとされる。
「そんな龍馬の高い人間力と行動力を『竜馬がゆく』は具体的に示してくれていて、そこに大いに共感するわけです。私は日本支社長という肩書を持ち、日本におけるフィンエアーのトップを務めてはいますが、本来は先頭に立つよりも縁の下の力持ちでありたいし、私が進言することで本社にいるボスが立ち回りやすくなればいいと常に意識しています」
そう語る永原氏には、もうひとり、心惹かれてやまない歴史上の人物がいる。戦国時代から安土桃山時代にかけての武将、竹中半兵衛。羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)の参謀として活躍した天才軍師だ。
「戦国時代に興味を持っていろいろな書物に触れる中、笹沢佐保氏の著作に出合い、その存在を知りました。彼もまさにナンバー2。地に足の着いた情報収集を軸とし、人と人とのつながりを大切にする人物として描かれています。私も仕事で突破口を開きたいときは頼りにしている人に直接会って話を聞きます。
ちなみにビジネス本には頼りません。そもそも航空業界に特化したビジネス本は見当たりませんし、かといって他の業界について語られたものをコピーするわけにもいかない。豊かな人脈を築き、いざというときに腹を割って話せる、相談に乗ってもらえる味方を持つことがプラスになる。笹沢氏の小説はそんなことを考えるきっかけにもなりましたね」
ソフトな印象を演出しつつアイキャッチとして活用
さて、ここからは”リーダー”のメガネについての話をしたい。
先ほど、永原氏は「自らが先頭に立つよりも縁の下の力持ちでありたい」と発言したが、リーダーである以上、記者会見やPRイベントなど、人前に出る機会は多いはず。そこで、装いに対する考えを尋ねてみたのだが、氏は「語るほどのことは何もありません」と謙遜するようにかぶりを振った。
「航空業界は空港勤務の制服組や営業は別として、バックオフィスにはカジュアルな格好をしている人が多いかもしれません。ノータイで出勤することも珍しくありませんし、お客様に会わない日はデニムを穿くこともある。それぐらい自由です」
かつてはメガネで冒険したこともあるようだ。20年ほど前からセルフレームに親しみ、一時は赤いフレームにもトライしたという。
「顔のパーツが小さくて強面なので、少しでも印象が和らげばと思いましてね。もともとダークな色を好む傾向があるので、いつのまにか別のメガネを手にするようになってしまいましたが、メガネが人の雰囲気を左右し、アイキャッチにもなるということを、身をもって知りました」
1回ショップに行ったら、数本をまとめ買い。ハイブランドにこだわらないのが永原流だ。
「遠近両用で乱視にも対応させるとレンズの値段がそれなりになってしまうので、フレームはリーズナブルに。そうすれば気負わずに購入できますし、種類も増えて気分転換にも役立つんです」
ちなみに、この日、永原氏がかけていたメガネはフレームの半分が青い一本。選んだ理由を尋ねると「最近、もっぱらコレなので」とだけ控えめに答えてくださったが、青はフィンエアーのコーポレートカラーだ。
見れば、永原氏のVゾーンを彩るタイもブルーである。氏自身は言明しなかったが、自らの装いを通してさりげなく自社をアピールするところにリーダーとしての模範的な姿を見た気がした。