
バーゼル取材 DAY2
独立時計師達のアイデアあふれる仕事ぶり
独立時計師のグループAHCI(Academie Horlogere des Createurs Independants)、通称アカデミーのブースには、例年のように、時計ジャーナリスト、コレクター、時計ブティックの経営者など、たくさんの人が、独立時計師達のアイデアあふれる仕事ぶりを見に来るから、いつも賑わいをみせている。
最近の数年は、中国系の時計師が招待されて作品を並べているが、今年はなんと三人もの中国系時計師が出展していて、時代の変化を感じさせていた。そんな中、多くの人が訪ねていたのが、日本から出展している浅岡 肇氏のところで、彼の新作に人々は、興味津々のまなざしを向けていた。
その新作とは、直径15ミリという大きなテンプを持つスモールセコンドの腕時計「TSUNAMI」の新しいバリエーションで、そのシースルーバックから大きな香箱と、懐中時計の「出テンプ」をイメージしたというテンワがみえる。そのテンワが昔の黄金期の腕時計のように、毎時1万8000振動でゆっくりと時を刻むのだ。その動きを見るのは、時計好きにとっては至福の時間かも知れない。
浅岡氏の時計は、まずトゥールビヨンに始まり、そして昨年発表のクロノグラフ、そして今年のスモールセコンド(最初の発表は2013年)と、だんだん手の届く範囲のものとなってきたのだが、なにしろ個人作家であるがゆえに製作本数に限りがあり、高嶺の花であることに変わりはない。

コンスタンチン・チャイキン(Konstantin Chaykin)という、ロシアのサンクトペテルスブルグに工房を構えるアカデミー・メンバーは、時の神クロノスをテーマにした腕時計や、文字盤を顔に見立てた不思議な時計を展示していた。
ラテン語でCARPE DEIMと名付けられた時計には、一本針の時計に腰かけた、時の神クロノスが砂時計を抱えていて、なんとその砂時計がメカニカルな装置によって、60秒かけて砂を落としていくように見せるという、なかなかの離れ業をする時計である。CARPE DEIMとは『その日をつかめ』つまり、今を大切に生きよという意味らしい。

またジョーカーという時計は、文字盤全体がまるで、『笑ゥせぇるすまん』のような顔になっていて不気味に開いた口の中はムーンフェイズ、二つの目玉の黒目によって、時、分を読み取るという”不気味時計”だ。しかし何ともユニークでどこかしら愛嬌もあったりするところが面白かった。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。バーゼル101年の歴史の3割を実際に取材してきたジャーナリストはそうはいない。
撮影/岸田克法 撮影・文/松山 猛