100年以上の歴史を未来へつなぐ弘前れんが倉庫美術館

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日本全国 アートと自然を愛でる癒やしの絶景美術館

心地よい空間や美しい景色のもと、思い思いにアートと向かい合う。美術館を訪ねる目的はさまざまだが、非日常感を味わいながら、心を癒やし、明日への活力をチャージする場所として美術館を楽しんでいるかたも多いことだろう。本特集では展示作品はもちろんのこと、そのロケーションや建物も一体となってアートを堪能でき、心癒やされる美術館を全国各地で探した。ご紹介する美術館は季節を問わず、いつ訪ねても、その時ならではの魅力がある。「いつか訪ねたい場所」として、まずはこちらでの美術館散歩をお楽しみあれ。

建築もアートな美術館へ

100年以上の記憶を宿した倉庫をアートとともに未来へ継承

美術館のシンボルとなる建物そのものが、アートとして一見の価値あり、と注目されるスポットが増えている。地元で時を刻んできた建物が匠の手で再生されたり、新たにできた建築が地域に活気をもたらすきっかけとなったり……。全国各地、個性豊かな建築が話題の美術館へご案内しよう。


青森・弘前
弘前れんが倉庫美術館

100年以上の記憶を宿した倉庫をアートとともに未来へ継承

弘前れんが倉庫美術館
吉野町緑地の芝生に囲まれて建つ「弘前れんが倉庫美術館」。右が美術館、左はカフェ・ショップ。建築家・田根 剛氏が築100年あまりの煉瓦倉庫を再生。

記憶を継承し、風景を創生する現代アート美術館

JR弘前駅と弘前公園の中間にあたる吉野町緑地の芝生に映える、煉瓦色の建物。「弘前れんが倉庫美術館」は、1年に2〜3回の企画展を行う現代アートの美術館として2020年にオープンした。展覧会の主軸となる作品は、国内外のアーティストが手がけるコミッションワーク(展示空間を想定して創作するアート)で、それらは市民の宝として蓄積されていく。

津軽藩の城下町・弘前は、地元好きを公言する人の多さでは青森県内随一の街。明治時代に「学都」を目指して多くの外国人教師を招いたことから建てられた当時の洋館が街並みに溶け込んでいる。100年以上前、りんご園だった場所に建てられた煉瓦倉庫もまた、長らく地元の人々に親しまれてきた。1907年から日本酒造工場として稼働し、1950年からはシードル工場に。当時は東洋で唯一の果実発泡酒として全国で販売されたという。その後は倉庫となった。

転機が訪れたのは2002年。現代美術作家の奈良美智氏と、当時のオーナーの吉井酒造社長吉井千代子氏との出会いを機に、多くの市民ボランティアが参加する展覧会を5年間で3回にわたり開催。大きな注目を集め、煉瓦倉庫とアートが強く結びついたのだ。

2015年、弘前市が倉庫と土地を取得し、文化施設を開設することを決定。設計は、その土地の記憶を掘り起こして建築に定着させる名手、田根 剛氏だ。厚く塗られた漆喰の奥に眠っていた煉瓦を呼び覚まして新たな工法「弘前積み」を開発し、老朽化した屋根はシードル・ゴールドのチタンで菱葺きに。残せるものは可能な限り残す「延築」という工法を掲げ、記憶を宿した建物を未来に繫げている。

【左上】奈良美智氏「A to Z Memorial Dog」(2007年)、【左下】ジャン=ミシェル・オトニエル「エデンの結び目」(2020年)、【右】ケリス・ウィン・エヴァンス「Drawing in Light(and Time)…suspended」(2020年)
(左上)奈良美智氏から弘前市に寄贈された「A to Z Memorial Dog」(2007年)は美術館の顔。楕円形の台座は倉庫の屋根裏に使われていた古材を使用。(右)ケリス・ウィン・エヴァンス「Drawing in Light(and Time)…suspended」(2020年)吹き抜けの展示室に合わせて着想された高さ7㍍に及ぶ大作。※2021年当時の展示風景。現在は展示されていない。(左下)ジャン=ミシェル・オトニエル「エデンの結び目」(2020年)ともに弘前れんが倉庫美術館蔵。

弘前積み煉瓦工法
設計を担当した田根氏がこの美術館のために考案・命名した「弘前積み煉瓦工法」によるエントランス。互い違いに積み上げられた煉瓦が美しい陰影を放っている。既存の建物を修復・保存するだけでなく、煉瓦の新たな使用法を発掘する「延築」が試みられている。

弘前産シードル3種の飲み比べセット
美術館隣棟には「カフェ&ショップ ブリック」が。弘前産シードル3種の飲み比べセット1800円。

アップルパイクッカー
南部鉄器の「及源」と弘前の「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」笹森通彰シェフが共同開発した愛らしいアップルパイクッカー1万6500円。カフェ内のミュージアムショップで購入可能。

弘前れんが倉庫美術館

住所:青森県弘前市吉野町2-1
TEL:0172-32-8950
開館時間:9時〜17時
休館日:火曜(祝日の場合は翌日振替)、年末年始
料金:一般1500円。展覧会により異なる。
● 9月27日から企画展「どうやってこの世界に生まれてきたの?」を開催(2025年3月9日まで)。

美術館の開館時間、休館日、展示期間、展示内容等は変更になる場合あり。お出かけ前に美術館の公式ホームページ等をご確認ください。

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