「退屈なまでにパーフェクトな乗り味」の高性能モデルとは

コンフォートモードで走り出した。この状態では最大トルクが80%に制限されているから、事実上、EQE 350 4MATIC SUVと変わらぬパフォーマンスということになる。そのせいかしばらくは高性能グレードらしい加速を感じることもない。AMGらしい雰囲気があるとすればやや硬めのライドフィールくらいだろうか。その辺は専用エンジンを積んだAMGモデルの醸す高揚感とはまるで様子が異なっている。街中ではAMGバッジだけがその証しというわけで、爆音はもはや無用、いかにも現代的な高性能モデルだ。
高速道路、特に120km/h区間の速度域になるとフラットライド感が増し、車体がグッと引き締まったように感じる。街中ではドタバタ感の強まるスポーツモードにおいても、高速域では打って変わってとても安心感ある乗り心地になった。要するにアウトバーンでも通用するBEVというわけだ。
試しにスポーツ+で加速してみる。初速はもちろん中間域でも劇的で、3トン近い塊がすっ飛んでいくかのよう。重いクルマという意識が残っているうちは、スリリングを超えて恐怖を覚える加速だ。それゆえ一度試せばもう十分、だとすると、いったいなんのためのハイパフォーマンスなのだろう? 、とよくわからなくなってくる。
もちろんガソリンエンジン車にだって「今どきの高性能グレードの存在理由について」の疑問は変わらず存在する。それでもあえて弁護すれば、高性能エンジン車には特有のサウンドや回転フィールといった官能性がある。速さを実現するプロセスに楽しみを見つけることができた。それが付加価値だと言い張ることもできた。
ところが高性能なBEVでは、その結果がいきなり出てしまう。アクセルペダルひと踏みでとてつもない速さに到達する。それはそれでこれまでとはまるで違う体験ではあるけれど、一度経験すれば気の済むことでもあった。メルセデスAMGのような高性能モデルを売りにするブランドのBEV展開においては、今後、高性能の再定義が必要になってくるだろう。

もとい、EQE SUVはEQSに端を発する一連のEVA2モデルのなかで最もバランスのいいプロダクトだと思う。メルセデス製BEVの今を知るうえで最適であるし、その退屈なまでにパーフェクトな乗り味は実用車として最高だと言えるし、ある意味、往年のメルセデス・ベンツ Eクラスを思い出させるものだ。スタンダードモデルはそれでいい。だから買うなら350で十分だと思ってしまう(力強い走りもほとんど変わらないのだから)。
さらに上をいくラグジュアリー展開のメルセデス・マイバッハもまたBEVとの相性はいいだろう。けれども高性能版のメルセデスAMGは果たしてどうだろうか。AMGという名前の持つ記号性とちょっとした見栄えの違い以外に、乗り手を魅了する存在理由を現状で発揮できているのだろうか?
今でもAMG謹製の6.2リッターV8 NAに惚れ込んだ(中古で今でも狙っている)ままのいちファンとしては、BEVのメルセデス・ベンツ(とマイバッハ)は大いに認めているものの、AMGだけはイマひとつピンとこない。顆粒で作ったコンソメスープのようなもので、パンチはあるけれど味の深みにはかけている。
電動化時代におけるAMGの次の一手に注目したい。
文=西川淳 写真=阿部昌也、メルセデス・ベンツ 編集=iconic