いっそう高められた後席の乗り心地

ファーストエディションにはパネルなどにハンドクラフトのメタルオーバーレイを採用。ドアの内張りに開けられたいくつもの1mmの穴の奥にLEDを仕込んだベントレーダイヤモンドイルミネーションも備わった。


乗り味にしてもそうだ。ベントレーといえば超高級車の中でもドライバーズカーとして鳴らしてきたブランドだから、運転の楽しみをしっかりと残しているという点で抜かりはない。けれどもこのEWBではそこにパッセンジャー、特に後席の乗り心地をいっそう高めてきた。
例えばV8エンジンのサウンド。W12に変わってブランドのトップエンジンとなった高性能V8ツインターボは、パワフルさはそのままにサウンドをかなり抑えてきた。のみならずエンジンフィールはこれまでになく滑らかになり、クーペのコンチネンタルGTあたりに積まれているエンジンと同じであるとはにわかには信じ難いほど。ドライバーにとってもこの心地よさがありがたく、毛並みのいい猫を撫でているような気分に浸れる。
ベンテイガEWDのディテールをチェック(画像4枚)
それでも右足を強く踏み込めば、スポーツカーも驚く加速をみせる。5.3m、2.5トンを超える巨体であることをしばし忘れる。加速の間も安定感は素晴らしいから、余計、ボディサイズを感じない。後輪操舵を含め、シャシー制御の細やかさに恐れいる他ない。
EWBとなって真に驚くべきはそのシャシー制御の成熟だった。街乗りから高速領域まで、実に綿密に御されている。これだけ車体もタイヤも大きいと、制御が追いつかずにばたつくことがあってもおかしくないのに、それがほとんどない。足元の働きは実に献身的で、パッセンジャーを絶対に裏切らない。
真のラグジュアリィとは何か。個々の性能や見栄え質感だけではない。オーナーが、前に座るにしろ後ろにしろ、クルマとの間にいかにして信頼感を築いていけるのかどうか。乗り込んだ瞬間にそのきっかけを掴めるのかどうか。老舗ブランドはそのことをよく知っているのだった。
文=西川淳 写真=タナカヒデヒロ、ベントレーモーターズジャパン 編集=iconic