フェラーリ初のビスカスカップリングによるAWD


さて、408 4RMとはどのようなモデルであろうか?
シャーシはゼロから開発されたスペースフレームで、ステンレススチール、リベット及び接着剤を用いたアルミ押し出し材ノーメックスとハニカム複合材を採用したもので、ボディにはオートクレーブを用いたケブラーやCFRPを採用した。フェラーリの市販モデルではこれまで存在しなかったアーキテクチュアだ。ちなみにスタイリングはI.DE.A インスティテュートの手によるもので、クリーンなイメージの2シーターモデルとして仕上げられた。
エンジンは4リッターの4バルブV8DOHCドライサンプ仕様が、これまでの横置きではなく縦置き搭載された。このモデル名408 4RMは40=排気量、8=シリンダー数、4RM=「4 Ruote Motrici」つまり4輪駆動を意味するものであった。駆動方式の点でフェラーリとして初のビスカスカップリングによるAWDを採用したのだ。
かつてフォルギエーリにインタビューをした際に彼はこのように語ってくれた。「当時のフェラーリはあまりに保守的だった。せっかくF1界における最新の技術を持っているにもかかわらず、シャーシは古風な鋼管だし、ボディもスチール。フェラーリというブランドにふさわしいものではないと私は未来を危惧していたのです。」と。そんな彼の思いが具現化したのが408 4 RMだったというワケだ。

果たしてフォルギエーリが408 4 RMで蒔いた未来への遺伝子はどうなったのだろうか?
残念ながら当時の経営陣はAWDシステムがフェラーリのフィロソフィーに適合しないと考え、また重量増にも危惧した。そのためその開発は続行されることはなく、AWDが採用されるのは2011年のFF(フォー)登場まで待たなければならなかった。
一方、シャーシ、ボディに関しては328GTBに続く348シリーズにおいてはじめてスチール製モノコックが採用され、スカリエッティではロボットによる製造が開始された。しかし、剛性や重量増の問題で開発陣は苦戦した。続いてアルミ素材を用いたスペースフレームを採用し、その流れが現在も継承されている。フォルギエーリは、フェラーリのような少量生産スポーツカー・メーカーが生きる道は、フィアット流の大きな投資を伴う製造工程の確立ではなく、世の中の景気変動に対応して生産数量をコントロールする考え方が必要であることも説いたという。フォルギエーリの提案はまさに的を射ていた。
発表当時はあまり評価されなかった408 4 RMであるが、前述の2点においてもフェラーリの取り組まねばならない課題を明確に示唆していた重要な一台ではないであろうか。

コンセプト・モデルとして2台が製作された408 4RMであるが、現在、冒頭で述べたようにムゼオ・エンツォ・フェラーリで黄色の個体を見ることができる。それもこれまで公開されなかった内部構造まで眺めることができる。


デザイン、テクノロジー、パフォーマンスという3つの側面から、フェラーリにおけるエポックメイキングな試みをダイジェストした企画展”ゲーム・チェンジャーズ”展において、メイン展示として、プロサングエ、フォーを左右に従えて、408 4RMが鎮座している。プロサングエを主役としながらも、その原点となったフェラーリ初のAWDロードカー・コンセプトモデル408 4 RMと、市販初のAWDモデル、FFもステージにのせたワケだ。 この重要な遺伝子をフェラーリに残してくれたフォルギエーリ御大への哀悼の意を捧げる意味でも、機会あらばぜひ訪れていただきたい。

MUSEO ENZO FERRARI MODENA Via Paolo Ferrari, 85, 41121 Modena 当企画展は2024年2月17日まで開催予定
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文・写真=越湖信一 EKKO PROJECT 写真=フェラーリ 編集=iconic