
時代を造ったクルマたち vol.16
伝説的エンジニアが残した“未来への遺伝子”
イタリアはモデナ、エンツォ・フェラーリの生家に鎮座するムゼオ・エンツォ・フェラーリには、一人のオトコの“フェラーリへの遺言”であった、とでもいうような一台が展示されている。フェラーリ408 4RMである。
かなりのフェラーリ通であってもこのモデルネームを聞いて ? ではないかと思う。そう、このモデルは2台のみ試作されたレアなコンセプトカーなのだ。

1987年に発表された408 4RMであるが、この時期フェラーリ8気筒モデルは328GTBがマーケットに投入されていた。V8を横置きにミッドマウントしたコンパクトなフェラーリは市場では好意的に受け入れられていたが、中身は1960年代のアーキテクチュアをベースとしていた。チューブラーフレームにスチールパネルを接合したもので、フレーム自体はディーノ246GTのストレッチバージョンだ。328GTBはモダンなテイストのボディを纏っていたものの、その中身はかなり古風なものであったのだ。
このチューブラーフレームによるアーキテクチュアが決して悪いワケではない。フェラーリはそのマテリアルにもこだわったし、艤装をおこなったスカリエッティも良い仕事をしていた。しかしなにより製造効率が悪いし、軽量化へのハンディは大きい。コンペティションマシンの世界では、既にこのアーキテクチュアは消滅していたのだから。
この408 4RMの開発をおこったのはマウロ・フォルギエーリだ。昨年、残念なことに鬼籍に入ってしまったフェラーリの伝説的エンジニアであるが、彼は1985年にスクーデリア・フェラーリを離れ、先行開発部門であるフェラーリ・エンジニアリングへと移籍していた。そのフェラーリ・エンジニアリングにおける重要な置き土産の一つがこのモデルなのだ。ちなみに1987年、彼はフェラーリを離れ、ランボルギーニへと移籍し、F1エンジンの開発を手がけた。