運動性能の高さはそのベースのよさにある
今回のテストは、水をまいた低ミューの登坂路や円旋回など、圧雪路など雪道を想定しての内容だったが、サマータイヤを履いているとは思えないほどの高い走破性をみせた。

登坂発進体験@ウェット登坂路走行
低ミュー路の坂道途中でいったん停止をし、リスタートする。ほぼタイヤを空転させることなく、なんなく坂を登り切る。2度目は左側のタイヤをさらにミューの低い路面にのせ、右はアスファルト路面と、左右のグリップに大きなギャップのあるシチューエーションを試す。発進時に若干、ステアリングが左右に振られるような挙動が起きるものの、こちらも問題なくクリア。ちなみにサマータイヤを履いたFFのティグアンでは、このシチュエーションは登坂できなかった。

ウェットスラローム@ブレーキ路
水がまかれた路面に置かれたパイロンを目安にスラロームを行う。前輪が外にとびだしていくようないわゆるアンダーステアはほとんど起きない。ある一定の速度を超えると後輪が滑り出すのだが、それでもスピンすることはなかった。また回生ブレーキを使えば、低ミュー路では安全に制動できることがよくわかる。圧雪路などでもブレーキをロックさせてスピン、なんて心配はいらない。

低速域のステアリング体験@ハンドリング路
直線区間では90km/hくらいまで加速しながら、タイトコーナーに進入するといったハンドリング路を体験。ドライ路面では、少々乱暴にアクセルを踏みこんだり、ステアリングを大きめに切り込んでも挙動が乱れることはまったくなかった。まさに盤石のスタビリティ。

ドリフト体験@円旋回路
わずかなきっかけでドリフト状態にすることが可能。挙動もおだやかで、腕があればゼロカウンターでドリフト状態をキープすることができる。VDC(横滑り防止装置)をオフにしても、最終的には介入する安全設計となっているため、スピンすることも一度もなかった。

スポーツカーではなく、一見すると背の高いSUVである「ID.4」がなぜ、これほどまでに運動性能が高いのか。先述した「MEB」アーキテクチャーによって、重心を低く、また重量物を可能な限り車台の中心に寄せることができている。その結果、前後重量バランスは47:53と理想的なものに。そして「ID.4」はリアにモーターを搭載し、後輪駆動をするのだが、アンダーカバーを外してモーター搭載位置を確認すると、リアのドライブシャフトよりも内側にモーターが置かれていることがわかる。要は、ミッドシップなのだ。
低重心で前後重量配分はほぼイーブン、ミッドシップで後輪駆動といえば、まさにスポーツカーのそれである。「ID.4」の運動性能の高さは、そのベースのよさにあるというわけだ。
4WDではないことで不安を口にしていた雪国の人が、スタッドレスタイヤを履かせたこのクルマの雪道走破性の高さに驚いたという話もあながち嘘ではないだろう。まだ未試乗という人もSUV としての実用性は担保しつつ、スポーツカーさながらのハンドリング性能をもつ「ID.4」をぜひ一度お試しあれ。
文=藤野太一 写真=篠原晃一、フォルクスワーゲン ジャパン 編集=iconic