新たな一歩となるBEVは新型グラントゥーリズモから

マセラティのGTカー生誕75周年という節目の2022年になって、新型グラントゥーリズモ情報がどんどんとオープンになっていた。フォルゴーレと称すマセラティの電動化ストラテジーの中で、当初はMC20のBEVモデルの存在が大きくアピールされていたが、現在では新型グラントゥーリズモがその第1号モデルとなることが予告され、より存在感は高まっている。マセラティの電動化への取り組みは私たちが想像するよりもかなり早期に始まり、且つ投資規模も大きいものであった。故マルキオンネは電動化のトレンドはかなり早くやってくるという読みをもってプロジェクトの進行を叱咤激励していた。モデナのハイパフォーマンスカー・メーカーとしてマセラティが初めてBEVを発表するというストーリーはまさに既定路線であった。

ステランティスのCEOであるカルロス・タバレスが颯爽と次期グラントゥーリズモのBEVプロトタイプをドライブするシーンが配信された時、筆者はその写真から目を離すことができなかった。発表前であるからカモフラージュされているのはもちろんだが、それにしても、その完成度は高かった。そして、そのスタイリングの基本コンセプトは旧グラントゥーリズモとあまりに似ているではないか。一体これが新型グラントゥーリズモそのものなのか、どうか気になるところだった。
この10月になるとデビューを前に市販モデルのスタイリングが発表され、BEVモデル、V6ネットゥーノエンジンモデルの基本スペックまでが発表された。そして、そのスタイリングはまさに前述のプロトタイプそのものであったことも分かった。これはなかなか大胆な展開である。いずれにしても、まもなく創立110周年を迎えるマセラティ史において新しい一歩となる完全電動スポーツカーがグラントゥーリズモの名を纏い登場したのには大きな意義がある。来年の正式デビューが楽しみな新型マセラティグラントゥーリズモだ。


越湖信一
モデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職のレコード会社ディレクター時代から、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete GuideⅡ』などがある。
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文=越湖信一(EKKO PROJECT) 写真=ピニンファリーナ、マセラティ 構成=iconic