1980s
フレンチとブリティッシュの時代
次に、’80年代のムーブメントを見ていきましょう。先に説明したブリティッシュ・アメリカンが引き続き人気を博す傍らで、注目すべき新潮流が誕生しました。目下リバイバル中の「フレンチアイビー」です。
フレンチアイビーの定義とは何か?とよく訊かれるのですが、これは非常に難しい質問です。というのも、アメリカやイギリスのトラディショナルなアイテムを、フランス人の感性で自由に着こなしたスタイルがフレンチアイビーなのであって、その姿は千差万別。アイビーのようなわかりやすい定型は存在しませんし、フランスメーカーの服を着ればフレンチアイビーになるというものでもないのです。当時の定番アイテムを振り返ってみると、タータンチェックのパンツ、ラコステのポロ、U.S.アーミーのM65、英国製のカラフルなゴム引きコートなど、多国籍で捉えどころがありません。ただそれらの組み合わせ方が独特で、ポロシャツの首元にスカーフを巻いてみたり、スタジャンを着ているのに足元は革靴だったり、綺麗な色のシャツやタートルニットにカーディガンを羽織ったり……といった、フランス特有の洒脱さを感じさせるのです。
一方でジャケットにウエスタンブーツを合わせたり、軍の放出品を無造作に着たりといったラギッドな一面もありました。これらを各人のセンスでミックスするところに、フレンチアイビーの妙味があるのです。

Illustration by osamu19760714
Beams Creative Director
中村達也 Tatsuya Nakamura

Profile
1963年生まれ。アイビーでファッションに目覚める。大学時代にビームスでアルバイトを始め、卒業後に入社。フレンチアイビー、ブリティッシュ、クラシコといったムーブメントをリアルタイムで経験。日本のドレスファッション史における最重要人物の一人。
[MEN’S EX Summer 2022の記事を再構成]