
「速さ」ではなく「大人」をアピールする
実際、xDrive50に試乗してみると、ある意味“BMW離れ”した重厚感あふれる高級なライドフィールに驚く。BMWというと、その昔「駆けぬける歓び」をキャッチフレーズに、とにかく曲がった道を気持ちよく思い通りに走ることが得意なブランドだった。今でもエンジンモデルではその印象が強く残る。けれどもiXにはそれがほとんどない。だからといって曲がりづらいとかそういうことではなく、ハンドリングファンに重点を置きすぎていないとでも言おうか。それよりも、どんな道でも心地よく素直に走りぬけることを重視したセッティングになっていた。
加速パフォーマンスはそれほどすごくないと先に書いたが、それもまた運転しやすさ=素直なドライブフィールにつながっていると思う。BEVというと、とかくアクセルペダルひと踏みで乗り手を驚かせてナンボという風潮がテスラのせいでできてしまっているが、よくよく思い出してみれば、世の中のラグジュアリーモデルのなかで飛び抜けた加速性能だけをアピールするブランドなどないし、またユーザーもそんな乗り味などまるで期待もしていない。高性能モデルに特化したBMW Mブランドが出すBEVというならまだしも、そうでないのだから本来、加速は程々鋭ければ良いのであって、スーパーカーのようにダッシュを決める必要などないのだ。
つまりiXのパフォーマンスは“オトナ”だ。加速だけじゃない。ハンドリングにしてもBMWであることを忘れさせるほど懐が深く穏やかだ。堂々たる体躯と相まって、BEVにおける高級車のダイナミック性能のあり方をBMWは新たに提案しようとした。これは重要な試みだろう。
来る2030年。BMWはグローバルでの販売のうち半分をBEVとする電動化戦略を発表した。その中核を担うのがBMW iであり、フラッグシップモデルとなるiXでは従来からのBMWモデルらしくない、けれども電動ラグジュアリーモデルにふさわしい新たな見栄えのクオリティとドライブテイストを表現することに成功した。そこにエンジン屋、ドイツ語ならモーター屋だが、の意地を見る思いの専門家は筆者だけではないはずだ。
今月の1台 BMW iX(画像4枚)

車両価格 1070万円〜
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BMWカスタマー・インタラクション・センター TEL 0120-269-437
[MEN’S EX 2022年3月号DIGITAL Editionの記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
※表示価格は税込み