
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第48弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.48 / ダノリスのシャツ

2005年頃に購入しました。’90年代半ば頃から始まったイタリアンクラシックブームも’90年代後半になると世界的に大ブームとなり、エレガントなスーツやジャケットスタイルがドレススタイルの中心となりました。
そのような、どれだけエレガントに装うかが重要だった流れも、2000年代に入ると徐々に変化が表れます。そのきっかけとなったのが、当時BOGLIOLI(ボリオリ)が打ち出した製品染めのジャケットでした。
それまでイタリアと言えば、シャツやパンツだけでなく、ポロシャツ、Tシャツ、ジーンズ、下着にいたるまで、必ずアイロンをかけるというのが当たり前で、洗いざらしの服を着るなどということはあり得ないことでした。
そのような洋服文化が根付いていたイタリアで、仕立てた後に製品染めを施したジャケットを打ち出すブランドが出てきたこと自体が当時大きなトピックスでした。
賛否両論あった製品染めのジャケットも、制約の多いクラシックスタイルに疲れ始めていた人たちの間で徐々に広まり、その後ボリオリの成功を見た多くのサプライヤーが後追いで洗いのジャケットを次々に打ち出し、大きな流れとなりました。
やがてその流れはシャツやパンツやポロシャツにまで広がり、ドレスクロージングのカジュアル化の波が訪れます。そのような中でBEAMSが初めてバイイングした製品洗いのシャツが、DANOLIS(ダノリス)でした。
私が始めてダノリスのシャツを見たのは、今はなきミラノの名店CURATOLO(クラートロ)でした。
ボリオリのカシミヤの後染めのジャケットやサルトリオのテーラードジャケット、バランタインカシミヤのニットに合わせてコーディネートされていたウォッシュ加工のシャツがとても新鮮に見え、ネームをチェックするとダノリスという聞いたことがないブランドでしたが、PITTI UOMOに出展していることがわかり、2004年の1月のPITTI UOMOで初めてバイイングしました。
バイイングを始めた当初は、クラートロでも展開していた無地の白とブルーとストライプを中心にバイイングをしました。ストライプは特にマルチストライプやオルタネートストライプが当時はやっていたこともあり、毎シーズン必ず展開していました。この2枚のストライプもその流れの中で購入したものです。当時はジャケットやニットと合わせ、休日にはファイブポケットと合わせて着ていました。
イタリアのシャツはカジュアルなシャツであってもアイロンをかけなければならないという絶対的な決まり事があったので、洗いざらしで着てもいいダノリスのシャツは、気楽さもあってワードローブの中で増えていくことになります。
多くのダノリスのシャツを購入しましたが、今残っているのは2枚だけになりました。自分が購入した中でもこの2つのストライプは一番気に入った柄だったので、10年以上断捨離せずにクローゼットに眠っていました。
実は最近ストライプのカジュアルシャツが少し気になっているのと、スリムではない普通のフィッティングが今また新鮮で、十数年ぶりにクローゼットから引っ張り出して着ています。
ダノリスは数年前に廃業しましたが、イタリアブランドで洗いのシャツを広めたオピニオン的存在のシャツブランドなので、ボロボロになっても残していきたいアーカイブです。
今はニットやカットソーの流れに押され、カジュアルなシャツは非常に厳しい時代ですが、流れが変わりまたシャツの時代が来た時に、誰かダノリスを復活してくれないかなと思っています。
蘊蓄がある高級ブランドではないですが、今の時代に続く2000年以降のイタリアの新たなカジュアルスタイルを広めたブランドのひとつとして、後世に伝えていきたいシャツです。