アップデートされた2リッターターボを積む上級スポーティ仕様

続いて、SモデルのS3に試乗した。これは標準のA3モデルと、最強モデルであるRSモデルとのあいだを埋める上級スポーティ仕様という位置づけだ。

基本骨格はA3と同じとはいうものの、ハニカムパターンのシングルフレームグリルや大型のエアインテークを備えたフロントバンパー、専用デザインのリヤディフューザー、左右4本出しのテールパイプなどスポーティな仕立てで、車高も15mm低められており、よりワイド&ローな印象をうける。ボンネットの先端には1980年代のスポーツモデル、Audi quattroへのオマージュである3連スリットのようなデザインを備えた。

インテリアでは、メーターパネルの液晶が12.3インチへとベースモデルよりも拡大。高性能化にあわせて表示可能項目が増えている。そして、Sモデル用のバッジが配されたステアリングやスポーツシートなどが、よりスポーティさを引き立てている。

エンジンは最高出力 310ps、最大トルク 400Nmを発揮する2リッター4気筒ターボエンジンで、トランスミッションは7速Sトロニックを組み合わせる。駆動方式は電子制御式油圧多板クラッチを用いた クワトロ(フルタイム4WD)だ。こちらのエンジンにはMHEVは備わっていないが、2000回転から400Nmもの大トルクを発揮するだけあって、とても軽快に走る。晴れの日だけでなく、雨の日にも安心してアクセルを踏みこめる安定感の高さはクワトロならではのものだ。
そして試乗車には本来オプションの電子制御式のダンピングコントロールサスペンションが装着されていた。これは、ドライブモードに連動して「オート」「コンフォート」「ダイナミック」とダンパーの減衰力を調整できるものだが、市街地では「コンフォート」にしておけば、A3よりも快適なくらいの乗り心地が得られる。一方で「ダイナミック」ではワインディング路やそれこそサーキット走行も楽しめるほどダイレクトなハンドリングが味わえる。11万円のオプションだが、その振り幅の広さを考えれば決して高くはないと思う。
アウディはいま電動自動車(BEV)へと大きく舵を切ろうとしているが、しかし、こうした内燃エンジンモデルも手を抜かず、アップデートを続けている姿勢には共感できる。家庭に充電施設のない人にとってBEVはまだハードルの高いもの。賃貸住まいの身としては、もうしばらくは内燃エンジンモデルの楽しさと便利さを享受していきたいと思うのだ。
文=藤野太一 写真=柳田由人 編集=iconic