麻薬的な加速感

よってそのデザインは、エキサイティングなエンターテイメントでもある。クワトロならではのブリスターフェンダーに、前後にも張り出したスポイラー状のバンパー。さらにオプションで選べば、22インチ×10.5Jの超大径ホイールや、フロント10ポットキャリパーに440㎜径のカーボンディスクローターというブレンボのブレーキシステムを装着でき、迫力は一層増す。これらの強烈な駆動力や制動力を予感させるビジュアルも、RS6 アバントだからこそ、そんな説得力でもある。

室内に目をやると、運転支援システムの操作インターフェイスや、ダッシュボード中央の上下2画面タッチディスプレイなどはノーマルA6と同じだが、ハニカムステッチが施されたバルコナレザーのスポーツシートなど、トリムは専用。ドライブモード選択は「エフィシェンシー/コンフォート/オート/ダイナミック」の4モードを基本に、「RS1モード」と「RS2モード」というステアリングホイール上で切り替え可能な2種類が設定できる。ドライブシステム、サスペンション、ステアリング、エンジン音、クワトロスポーツディファレンシャルといったパラメーター項目を、「コンフォート/バランス重視/ダイナミック」の3段階を、それぞれ個別設定できる。

48VのMHEVシステムと気筒休止機構を備えたパワートレインは4リッターV8ツインターボに7速Sトロニックで、最大出力/トルクは600ps/800Nmに達する。その加速感たるや…ただ速いのではない。おそらく純EVで、より0-100㎞/h加速の短い車は難なく見つかる。とはいえ、パワーの出方における、刹那の矯(た)めと陶酔感のある伸びについては到底、RS6 アバントには叶わない。
元より力強くスムーズなV8のエキゾーストとトルクに加え、5000rpm辺りからターボのブーストが二次曲線的に炸裂し、上乗せされる。踏み込んでいると、底なしに膨らむトルクとパワーが天井知らずで素早く積み上がる印象で、しかもクワトロ4駆が強烈無比のトラクションで地面を蹴り続ける。それこそ、ロケットやカタパルトもかくや? 的な、スケールの大きい燃焼感を伴う加速フィールは、はっきりいって麻薬的でさえある。とはいえ150ps/200Nmという1輪当たりの負荷は、ワイドなタイヤサイズとクワトロAWDの制御を鑑みれば、コントロール下なのだろう。

次世代アイコンとして純EVのe-tron GTが発表された今、RS6 アバントはアウディにとって旧世代のアイコンかもしれない。しかし、速く遠くへ合理的に移動するという目的を究めた先の、背徳感まで表現しおおせた一台として、RS6 アバントは唯一無二の進化を遂げている。それは確かだ。
文/南陽一浩 写真/柳田由人、AUDI AG 編集/iconic