穏やかなハンドリングの奥には素直な挙動が隠されている

最新の745eも飛びきり快適なサルーンだ。
エアサスペンションの設定は全般的に柔らかめで、たっぷりとしたホイールストロークを生かしてしなやかにショックを吸収する。このためハイスピードコーナリング中に深いバンプを強行突破すると、バンプストップラバーに触れたことがはっきりと感じられるほどスプリングレートはソフトに設定されている。同じ路面を最新のメルセデス・ベンツS400dで通過してもバンプストップラバーにタッチする感触は伝わってこなかったので、この一点だけを取り上げれば「7シリーズはSクラスよりも足回りはソフト」といえるかもしれない。
おかげで後席の快適性は極上の部類。とりわけハーシュネスの遮断が巧妙で、路面からゴツゴツとした振動が伝わってこないのは見事としかいいようがない。

直列6気筒ガソリンエンジンを中心としたプラグインハイブリッド・システムの仕上がりも高級車に相応しいもの。注意深く耳を澄ませればストレート6らしい鼓動がかすかに伝わってくるものの、基本的には極めてスムーズでエンジンノイズもほとんど耳に届かない。

しかも、車載のバッテリーを満充電にすればエンジンを始動することなく50km近い距離を走行できる。その近未来的な走行感覚は新時代のラグジュアリーサルーンのあり方を示唆しているかのようだ。
もっとも、最初はただひたすらに快適なサルーンとしか思わなかった745eだが、ワインディングロードを繰り返し走っているうちに、そこはかとない感動が打ち寄せてくることに気づいた。ハンドリング自体のキレ味が特別優れているわけでもないのに、味わい深い喜びがジワジワと込み上げてくるのだ。その正体を突き止めようとしてさらに注意深く観察していると、穏やかなハンドリングのその奥に、極めて正確というか素直なクルマの挙動が隠されていることに気づいた。かすかなステアリング操作にも確実に反応してくれるので、狙いどおりの走行ラインに乗せるのは簡単だし、荒れた路面などで姿勢を乱しそうになっても思いどおりに修正できるのだ。
このコントロール性の高さがなにに起因しているのかしばらく思いを巡らせているうちに、ハタと気づいた。

50:50の前後重量バランス…。BMWの各モデルが備えているこの優れた資質が、正確で素直なハンドリングに大きく貢献しているに違いない。ちなみに、車検証のデータから算出すると745eの場合は49:51だったが、それにしても量産モデルとしては極めて正確な重量バランスであることには変わりない。
Sクラスにどれほど似せようとしても、結果的に顔を現わしてしまうBMWのDNA。これこそ7シリーズの本質といって間違いないだろう。
文/大谷達也 写真/ビーエムダブリュー 編集/iconic