満たされすぎたお腹をさすって道の駅の駐車場に戻り、ふと見上げてみれば丘の上に面白い建物が見えた。地元の人に聞くと村の小学校だという。後から調べて驚いたのだが、イギリスの著名な建築家リチャード・ロジャースの設計らしい。学校というので見学は遠慮したが、機会があればじっくりと見てみたいと思う。
道の駅といい、小学校といい、お目当ての場所にたどり着く前にすでに楽しい出会いがあった。これだからドライブ“道草”旅行は楽しい。
そのまま163号線を走り、途中で旧道へと左折すると鄙びた村落に差し掛かる。抜けたあたりに村役場と文化会館はあった。
木津川沿いに佇む、コンクリート造りの「やまなみホール」

山間の中に、びっくりするほどモダンで斬新なコンクリート建築がひっそりと建っている。裏には大きな一級河川“木津川”が流れており、その向こうには山、山、山だ。よく見れば、メインの建物の外観もまた柔らかな弧を描き、山間の背景によくマッチしている。やまなみホールという名前も納得の造形である。
メインの建物には音響効果に優れた音楽ホールが入っているが、それよりも特徴的なのがエントランスに立つ塔群である。四角いコンクリートのオブジェには頭頂部に鉄骨の立方体が載り、中には透明のキューブが仕込まれていた。オブジェ本体の側面には月の満ち欠けが描かれている。
建物の全容を眺めてみようと、川沿いに出てみた。そこからの建物の眺めもまた違う個性があって面白い。川沿いには桜らしき並木があったので、職員に聞いてみれば八重桜だという。もう一度春にやって来たいと思った。
山間の村にある意味、異様な建築物である。遠くからどう見えるのだろうか。近くの沈下橋を見学ついでに、遠く向こうに見えていた橋を目指した。はたして、渓谷に架かった橋から眺めたホールは目立っているけれども何故か異質には思えない。昨日できたようでもあって、ずっと昔からあるようでもあるという、何だか不思議な感覚に見舞われた。
高山ダム沿いのワインディングロードをひとっ走り楽しんだあとは、クルマ好きが週末ごとに集うという“カフェセブン”で午後の紅茶を楽しむ。古今東西、いろんなクルマが入れ替わり立ち替わりやってくる。それを眺めているだけで幸せな気分になった。

文/西川 淳 写真/橋本 玲 編集/iconic