「嵐のようなレジェンド・コール 異国の地での優越感も原動力です」(葛西さん)

若手と抜きつ抜かれつ闘う 人気復活の鍵は手に汗握るドラマ
丸山 スキージャンプ界がファン層を拡大するために、必要なことは何だと思われますか?
葛西 やはり選手が活躍しないことには、認知されづらいですよね。活躍している選手としては女子では高梨沙羅選手、男子では2シーズン前にワールドカップ総合優勝を果たした僕の教え子、小林陵侑選手がいますが、まだこれからです。僕は極端に若い選手か年配の選手が活躍すれば、注目度が高まると考えています。僕が41歳で銀メダルを獲ったときのように。
丸山 レジェンドのようなベテランが若手を倒す姿やそれを阻止する若手の姿、そんな手に汗握るドラマが起きれば間違いなく盛り上がるでしょうね。
葛西 年齢を超えて挑戦する僕を見て「自分もがんばろう」と思ってくださる方が多いようで、そんな方たちから僕自身も元気をいただいている。それって結構すごいことなんじゃないかなと、ここ数年強く感じています。だから僕が活躍するほど、ジャンプ界もまた盛り上がるのではと考えています。
丸山 特にヨーロッパでのレジェンド人気はすごいですよね。
葛西 本来、観客は自国の選手を応援するものですが、僕の場合は会場中が一緒になって外国人である僕を応援してくださるので、一番歓声が大きい。僕の名前が呼ばれると会場がワーッ! と一つになる。その優越感は堪らないですよ。
丸山 欧米には、功績を残してきた人に敬意を表する文化がありますよね。アジア人は流行りものが好きだから、新しい人ばかりをフィーチャーしますが。マスターズの始球式でジャック・ニクラウスが打ったときは、拍手喝采で朝から大盛りあがりでした。ゴルフ界の帝王に敬意を表することで、タイガーのような現役のプロゴルファーにも光が当たる。そういうリスペクトは日本のスポーツ界も見習ってほしいと思いますね。だから、最年長記録を更新し続けるレジェンドが国境を越えて讃えられていることは、素晴らしいことですよ。さすが!
葛西 ありがとうございます!
「還暦ジャンパーが札幌の空を飛ぶ 10年後の勇姿に期待しています」(丸山さん)

丸山 だんだん飛ぶのが怖くなったりはしませんか?高所ですし、スピードも出ますが。
葛西 怪我したり、転んだりすると、恐怖心を克服するまでに時間がかかりますね。あと世界一高いジャンプ台はやはり怖いです。世界に5台あるんですよ、200メートル以上飛べるモンスター級のジャンプ台が。僕は4、5番アイアンでそれぐらいの飛距離が出るんですが、生身の体ではやはり怖いですね。
丸山 200メートルは、ゴルフで言うところの220ヤード弱。高い所から景色を眺めるだけならまだしも、自分が球のように飛んでいくんだから、そりゃあ怖いですよね。
葛西 それも100キロ強のスピードですからね。
丸山 次の大舞台は、2022年の北京冬季五輪ですね。
葛西 僕が50歳を迎える年です。
丸山 そして2030年の冬季五輪は、レジェンドの地元である北海道の札幌が招致を目指しています。
葛西 そのときは58歳ですよ。
丸山 飛んだらかっこいいですね。
葛西 ほぼ還暦のジャンパーです。
丸山 ジェンドが一本でも飛んだら、僕は泣くね。
葛西 泣いちゃいますか(笑)。
丸山 そのときは札幌に応援しに行きますよ。
[MEN’S EX 2020年12月号の記事を再構成]
撮影/筒井義昭〈丸山さん〉 椙本裕子〈葛西さん〉 文/間中美希子