メインの魚・肉も芸術的な美しさ!

平目とじゃがいもの一品は、北海道産の4キロの大物のヒラメの骨を抜き、上身と下身を合わせてオリーブオイルと共に一晩マリネしてから、ほうれん草で巻き上げ、55度で20分ほど低温調理したもの。レモンとディルの香るじゃがいものピュレに、焦がしたオリーブオイルを纏わせたペコロスがいいアクセントになっている。

メインは「和牛のロースト 茄子とモッツァレラのクレマ」。
ハインツベック時代からの付き合いの牧場から送られてくる飛騨和牛は、実際にアマランテが牧場を訪れ、小規模で一頭一頭にきちんと向き合って育てていると納得して取引を始めた。低温調理で優しく火を入れた後、備長炭で炙って仕上げている。
控えめな塩や砂糖、効果的な柑橘類の香りや酸味の使い方のみならず、アマランテのスタイルを特徴づけるものの一つが、実に手間のかかった工程を経て生み出される、クリアな色合いの独自のソースだ。
通常こういったソースには骨や関節、端肉の部分を使うが、アマランテが使うのは牛と仔牛のハラミの肉のみ。玉ねぎ、セロリ、人参といった香味野菜を焦がさないように炒め、赤ワインを加えて煮込み、濾したものに新しい肉と野菜を加えることを3度繰り返し、3日以上かけて完成する。それにより、雑味やえぐみのない、「透明な旨味の塊」が出来上がるわけだ。
さらに、ナポリの郷土料理、ナスとトマトの重ね焼き「パルミジャーナ」を洗練させた付け合わせ。薄切りのナスのグリルで、トマトのコンフィ、モッツァレラチーズを巻き上げ、上に細かく刻んだナスの皮の素揚げが飾られている。
仕上げのバジルソースとモッツァレラチーズのソースが和牛肉とパルミジャーナをつなぐ役割を果たす。

「スフォリアテッラ」は、元々はラードを練り込んだパイ生地にリコッタチーズを包んだナポリの郷土菓子。その形は残しつつ、リコッタクリームのムース、オレンジフラワーウォーター、そして中心に、ほのかな苦味のある青柚子のコンポートを忍ばせて、軽やかに仕上げた。下には相性の良いシナモンを使った軽やかなクランブルが敷き詰められている。

「ババ ナポレターノ」は、その名の通り、ナポリ風のババ。「良いババは、手で握ると崩れずにスポンジのように戻るものなんだ」と誇らしげに話すアマランテ氏。最初から塩を入れず、2回の発酵でしっかりグルテンを作ってから最後の段階で塩を入れることで、しっかりと弾力のある生地に仕上がる。
しっかりとシロップを吸うものの、そのシロップが甘すぎず、レモングラスの清涼感が生きたすっきりとした仕上がりになっているのがポイント。アルコールが苦手な方もいることを考えて、ババのシロップにはアルコールは入れず、サービスの際に20年もののラム酒かリモンチェッロ、好みのものをかけていただく。上のクリームはバニラビーンズが入っており、きちんと「ババらしさ」のバランスに引き戻す。

食後には、「カフェ プティフール」。
シックなグレーのアルマーニのロゴ入りのお重に、チョコレートやマスカルポーネチーズが香る一口サイズのティラミス、カントゥッチョ、ローズマリーのプラリネのミルクチョコ、チョコレートヌガーなどがぎっしり。マスカットとカスタードのサブレ、モンブラン、栗のムース、栗のケーキ、ミニャルディーズ、どれもクオリティが高く、階上のバーで提供しているアフタヌーンティーも期待できそうだ。
思い出したのは、日本人初のフェラーリのチーフデザイナー、KEN OKUYAMAこと、奥山 清行氏にインタビューした際の言葉。「イタリアといえば、のんびり人生を楽しんでいると思うでしょう?ほとんどのイタリア人がそうなんですが、その中の1%か2%、ものすごく優秀で、ものすごくよく働く人たちがいるんです。フェラーリの経営会議は、毎週月曜の朝7時半からでした。色々な国で働いてきましたが、世界でダントツの勤勉さだと思います」これまで見てきた、トップクラスのイタリア人シェフは、そのイメージがまさに当てはまる。アマランテ氏にも、そんな妥協を許さない一徹さがある。
「これまで、ミシュランの三つ星、二つ星で働いてきた。そのスタンダードを徹底したい」。言葉でいうのはオセロの石をひっくり返すように簡単だが、実際には、庭石をひっくり返すくらいの根気が必要だろう。何しろ、料理のスタイルが変わるということは、スタッフが慣れ親しんできた毎日の仕事の手順、一つ一つが変わってくるからだ。
それでも、スーシェフの増森侑平氏は、「カルミネは、この新天地で自らのスタイルを確立するだろう」と確信している。アマランテ氏と働きたいと、6月にミラノのフォーシーズンズホテルを退職し、チームに加わった。「僕の方が年上ですが、カルミネから学ぶことは多いです。特に、情熱、野心、決心」。アマランテ氏の「上質な食材の味を、生産者の思いと共に伝えたい」と言う、自分のスタイルを信じる強さに感銘を受けていると言う。
階上のバーではカクテルのみならず、アフタヌーンティーやバーメニューが楽しめ、表参道のカフェのメニューの作成、さらには11月20日には、大阪でビストロ のオープンも控える。
コロナの煽りを受けた期間中、これまで以上に食材の理解に力を注いだと言うアマランテ氏。「レストランの営業ができなかった期間中、生産者訪問などをしたシェフも増えたのではないか。これからの美食は、素材の力をいかに引き出すかという料理によりシフトしていくだろう」と語る。そして、それはアマランテ氏がずっと続けてきたスタイルそのものでもある。さらに、コロナ禍の中で生まれた健康志向が弾みをつける。「今後は食材の中の塩分をどう料理に取り込んでいくかにも注力したい」というアマランテ氏に、追い風は吹いているようだ。
「アルマーニリストランテ」
住所:東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ 銀座タワー10F
TEL:03-6274-7005
URL:アルマーニリストランテ
※「カルミネ・アマランテ」(11皿コース)2万5000円(税込・サ別)
取材・文/仲山今日子