ニュアンスの天才服
これ見よがしでは決してなく、かといって普通でもない。エルメスの服はどれも、絶妙なニュアンスを宿している。冒頭でクローズアップした“ボウタイカラー”のシャツだけでなく、スーツやコートにも、一見シンプルに見えてよく見るとユニークな“仕掛け”が施されているのだ。
ごく自然体なのにただならぬオーラを醸し出すエルメスの佇まいは、こうした天才的ニュアンスの賜なのである。
“二重身頃”で魅せるスーツのイノベーション

程よいラペル幅といい立体的な肩周りといい、一見極めてベーシックなフランネルスーツ。が、フロントの合わせ部分にご注目。なんと、向かって右の身頃が二重になっているのだ。
内側だけをボタンで留めると、動きに合わせて外側の身頃がめくれて非常にユニークなアクセントに。もう少し抑えて着たいときは両方をボタンで留めてもいいし、両方を外してもいい。一着で多彩なニュアンスを表現できるのだ。
贅を極めたカシミアダブルフェイスが描き出す、世にも妙なるドレープ

なんといっても目を引くのは、アウターの素材。肉厚な一枚のメルトン生地に見えて、じつは贅沢にもカシミア100%のダブルフェイスである。肌触りもさることながら、ドレープの美しさが絶品。
カシミア特有のしなやかさと美しい起毛感、しっとりとした微光沢が、えもいわれぬラグジュアリー感を醸し出している。ボタン周りのレザー使いも絶妙なアクセントだ。
※表示価格は税抜き
[MEN’S EX 2020年11月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)