スタイリッシュなステーションワゴンなら
一方で、いかにもファミリーカー然とした背高のミニバンやSUV風が気恥ずかしい、そんな人にはスタイリッシュなフレンチ・ステーションワゴンがいい。ステーションワゴンというジャンル自体が国産では絶滅危惧種なので、そもそも欧州車の独壇場なのだが、ハイパワーAWDか、乗り出し500万円超しか選べないドイツ車より、フランス車ならいまだ敷居は低い。
ルノー メガーヌ スポーツ・ツアラーGT

その筆頭といえるのが、「ルノー メガーヌ スポーツ・ツアラーGT」だ。後席を倒せば室内長1.8m近くに及ぶ使い勝手のいい荷室に加え、「4コントロール」と呼ばれる4輪操舵システムがメガーヌGTの特長だ。ステアリングを切ると前輪だけでなく後輪も舵を切る仕組みで、速度域に応じて逆位相もしくは同位相に切れるのだが、そのプログラミングが絶妙。
低速域では小回りが効く一方で、高速域では4輪がビタリと路面に貼りついたかのようなコーナリングが味わえる。スキーでいうカービングターンのように、切れ上がるような感覚だ。それでいて乗り心地は恐ろしくしなやか、かつフラットで、人数や荷物が多めでも長距離を快適に呑み込んでいく、そんな移動を大の得意とする。

プジョー 508SW

動的クオリティと積載性の両立という意味で、価格帯は上がるが勧められるもう一台の仏式ステーションワゴンは、「プジョー508SW」だ。フランス車には珍しく、エコ/コンフォート/ノーマル/スポーツの4モード切り替えのドライブセレクタが備わるのだが、単なるプログラム制御どころか、数十m先の路面を読み取って減衰力をリアルタイムで制御するアクティブサスペンションと連動している。
これが想像以上に効果的で、同じような可変ドライブモード付きの同クラス他車に対し、ノーマルのままでも2割増しほどスポ―ティだが、逆にコンフォートでは3割増しの柔らかさと穏やかさで、そしていざスポーツにしたら5割ほど切れ味が増す。味つけのメリハリが絶妙なのだ。

ファミリーカーは生活道具なので「用が足りるか否か」という目的論は重要ながら、親しい人や荷を積んで目的地に辿り着くだけなら、程度の差こそあれ、大抵のクルマで事足りてしまう。
だが移動時間そのものの質を楽しむような「車上生活レベルの高さ」にかけては、やはりバカンスという習慣で鍛えられたフランス車に一日の長がある。移動は安く上がるほどいいという国産車的なコスパ主義や、早く着くほどいいというドイツ車的な効率主義から、一歩引いた価値観で選ぶファミリーカーなら、フランス車は一度経験しておきたい何かだ。
文/南陽一浩 編集/iconic