BEST3
Millbrook Resort
[ニュージーランド/ミルブルック・リゾート]

ここを終の住処にしたい……
そんなイメージが膨らむ至福のひととき
1992年、日本人創設者の石井栄一氏がクイーンズタウンの街を見てひと目惚れ、ニュージーランドに初めて作り上げたゴルフリゾート。写真は、The Coronet 6th hole 570yards, par5。
https://www.millbrook.co.nz/
世界中のゴルフコースの旅を続けていて、心に残っている所は全てと言って良いほど不便な場所にあった。このロイヤル・ドーノックもそうだった。初めて行ったのはもう30年ほど前になる。セント・アンドリュースのバーで隣り合わせたキャディが声をかけてきた。「君はゴルフが好きなのか。だったらドーノックに行くといい。きっとゴルフがもっと好きになるよ」その一言に暇を持て余していた僕は翌日車を走らせた。セント・アンドリュースからひたすら北に向かい、いくつかの有名なスコッチ蒸留所を過ぎるとドーノックの街に着いた。そこは驚くほどひっそりとした街だ。海岸のほうに出てみるとそこにコースはあった。400年前のプレーの記録が残っているという。1番は運よくパーでスタート。しかし2番のパー3で悲鳴を上げる。手前の深いバンカーから出ないのだ。先が思いやられるなと次に進む。一段高くなったティーから見渡す景色に僕は凍りついた。コース一面にハリエニシダの黄色い花が咲き誇っていた。この一瞬のときめきから30年が過ぎたが、ゴルフ好きとスコッチを飲むたびにドーノックへの旅に誘いたくなる。
ミレニアムと騒がれた2000年頃、世界では若い設計家が新しいゴルフコースを創り始めた。誰もが海岸線にリンクススタイルのコースを創ろうとしたがなかなか最適な土地が見つからない。そうしてオレゴン州の鄙びたところにできたのがバンドン・デューンズ。まさにそこはスコットランドのリンクス・ランドだ。
昨年、久々に訪れてみた。新しいコースも加わり、現在では5コースにパー3のショートコースもできた。お昼過ぎにロッジに着き、ソワソワするゴルファーの心を見透かしたかのようにパー3のプレーを勧められた。必要なクラブだけ軽量バッグに詰め替えスタート。これがパー3コースかと思わせるようなワクワク、ドキドキの連続ですっかりみんな少年の気分。翌日から1コースずつゴルフをどっぷり堪能。ゴルフしかないが、ゴルフだけで夢心地の旅となった。
『ロード・オブ・ザ・リング』の大成功でハリウッド映画がニュージーランドを撮影の地として注目した。それは映画に留まらずゴルフ場の地としても光が当たった。
大自然が手付かず残っているクイーンズタウンにミルブルック・リゾートはある。四方を高い山に囲まれていて、スキーとゴルフを同時に楽しめるという贅沢な立地だ。何もないからつまらないとはならない。何もないからこそ、何かを見いだせる。小川の音、小さな花、枯れ落ちた葉っぱ……普段では気に留めない何気ないものが美しく感じられる。これこそが至福のひととき。
歳を重ねる度、終の住処をどこにしようかとぼんやり思うことがあるが、ミルブルックは心踊る場所なのだ。
[MENʼS EX 2020年9月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)