指導するときも同じ現役選手としてのリスペクトを忘れない
丸山 末續さんは学生や実業団の指導も行っているとか。コーチとして大切にされていることは何ですか?
末續 僕は現役選手なので、たとえ教える側になっても、教えられる側と同じく悩んでいる立場です。押し付けがましいアドバイスは無礼になることもあるので、信頼関係を築いた上で「僕だったらこうするよ」と伝えるようにしていますね。
丸山 あくまで同じ目線で接するということですね。
末續 丸山さんご自身は、五輪のゴルフ日本代表監督としてどんな指導をされるんですか?
丸山 ゴルファーはそもそも専任のコーチやトレーナーがいる個人事業主なので、基本的にアドバイスはしません。ただ、求められたら代表監督として的確に助言できるように、常に代表候補選手の気持ちになってプレーを見守っています。
末續 優しいですね。
丸山 コースや食事、天気などの別の話題を振ったりして、話しかけやすい雰囲気作りもしますよ。
「“解説者・丸山茂樹”は知らないおじさんによく叱られます(笑)」(丸山さん)

末續 僕は去年の夏、ドーハ世界陸上で解説者にも挑戦したんですが、選手のウェットな気持ちにシンクロしてしまい、思うようにいきませんでした。
丸山 競馬なら「あの馬、調子悪そうですね」なんて気軽にコメントできるけれど、相手が人だと難しいですよ。
末續 おっしゃるとおり、会場入りした選手の目を見れば調子がいいのか悪いのか瞬時にわかりますからね。
丸山 僕は喋りすぎて「マルちゃん、言いすぎだよ」と一般の方に嗜められることもあります。そんなときは素直に謝る(笑)。
末續 真実をどこまで伝えるべきか、塩梅が難しいですよね。
丸山 そして選手を愛称で呼んだ日には「紳士のスポーツなんだから」と、またお叱りを受ける(笑)。
末續 そしてまた謝る(笑)。
丸山 ドーハは暑かったでしょう。
末續 冷房の効いた競技場と47度ある屋外との差が激しかったですね。
丸山 47度も!? 来年の東京五輪も暑さ対策は課題ですよね。
夢は新国立でイーグルラン杯 世界中で陸上ファンを育てたい
丸山 今後、スポーツファンを増やすために、末續さんは何が大切だと思われますか?
末續 陸上の場合は皆が集える場を設けることが大切だと思います。僕は「イーグルラン ランニング コミュニティ」という陸上クラブを立ち上げたことで、それを実感しました。
丸山 僕も「丸山茂樹ジュニアファンデーション」という子ども向けのゴルフイベントを主宰していますよ。そこでは陸上の指導をされたりも?
末續 ここは皆が関係性を築いたコミュニティなので僕は見守るだけです。面白いのは、走らないで眺めているだけの人がいたり、皆のアイドル的存在の小さな子に会うために通う人がいたりすることです。集える場さえ用意すれば、陸上好きの輪は自然に広がる。これは大きな発見でしたね。
丸山 アメリカにはそうしたコミュニティは多いですよ。老若男女がスポーツを楽しんでいるような。
末續 僕のコミュニティも、週末は孫子ほど年齢の離れたメンバーが仲良く走ったりしています。今はこうした陸上クラブを世界中に作りたい。そしていつか世界中のメンバーで、新国立競技場を満員にするような陸上大会を開きたいと考えています。
丸山 「イーグルラン杯」ですね。世界一美しいと称される末續さんの走りが世界中で継承されていけば、ナショナルチームにスカウトされる逸材も出てくるかもしれませんね。
[MEN’S EX 2020年8月号の記事を再構成]
撮影/筒井義昭 スタイリング/松純〈丸山さん〉森岡 弘さん〈末續さん〉 文/間中美希子