死ぬか生きるかの瀬戸際に考え出された“復活の呪文”
後になって運用チームが話してくれた、一番「生きた心地がしなかった90分」。 それは1月終わりのころでした。衛星は調子もよく、毎日交信をして調整を続けていたある日。 いつものようにパスの始まる時刻に管制室に入り、衛星がやってくる時間を待っていたら、、交信が始まった瞬間、アラームが鳴っていたんだそうです。(正確にはモニター上に現れている信号が赤の点滅になった状態、とのことです) ん? それってどのくらいのアラームなんですか? 担当者「それが赤に点滅するというのは、分かりやすいイメージだと、飛行機の操縦で異常発生を知らせる、最後のアラームという感じですね」 それは! もう、衛星がだめになる、という本当に本当の緊急事態ではありませんか!? 状態としては、衛星の通信データが通る大切な主要なハブの部分に過剰な電力がかかり、電源が落ちてしまったとのこと。これを知ったときに運用スタッフは「終わった。」と思ったそうです。この問題が起きてしまったら、もうだめだ、と。家電でイメージすると、ショートして壊れてしまっている状態だそうです。 しかし、何か、できることはないのか。 その緊急の異常事態発生中、そして衛星とは10分弱しか交信できない中、必死で考えて、もう一度その状態からリセットをかけるようなコマンドをその場で考えて、そして急いでそれを送り、その直後、衛星は日本上空から去っていったそうです。 そ、それは、いわば復活の呪文では! 呪文を送るのは、1文字も間違えてはいけない、手に汗握る数秒だったに違いない、と私は勝手に(ドラクエ2ばりの)そのシーンを想像しました。そして、その呪文が効いたかどうかわかるのは90分後、また衛星が日本の上空にやってきたときです。 その間の90分、運用チームは話をせず、じっと待ったそうです。次のパスで衛星が生きているか、それとも、、もうだめになってしまったか、それが分かるはず。。 90分。それは人生で一番長い90分だったに違いありません。 そして、次の交信の時。おそるおそるモニターを見ます。じっと見つめます。 イザナギに反応が! 呪文(コマンド)により無事に復活し、交信できたときは、本当にほっとしたそうです。

今思えば、それは平日の昼間だったのですが、管制室での仕事終えて会社のオフィスに戻ってきた後も運用スタッフはそんな素振りをまったく見せなかったため、 他のスタッフはそのような事態になっていたとはまったく知らなかったとのこと。 どんな状況でも常に平静を保って、たんたんといつものように、必死に最善を尽くしていたチームを、私はやはり尊敬せずにはいられません。
人工衛星を身近に感じる方法は?
打ち上げ以降、「イザナギは今ごろ上空にいるんだなー」と、交信の時間あたりには空を見上げることがよくあります。 温度差が200度以上もある宇宙空間でよく頑張っているな、と。イザナギは太陽光で自分でバッテリーを充電して動いているんですよね。何かあってもだれも修理しにいけない、そんな状況の中、地上からのコマンドを受けて、姿勢を変えたり、レーダーを使ったり。そんなイザナギは会社の同僚のようにも感じます。 でも、イザナギの状況は管制室でのやりとりを通して分かりますが、それでも、見えるわけではないので、遠い存在には感じていました。(宇宙支局に赴任している同僚からなんだかんだメールがやってくる、みたいな??) なんとかもう少しイザナギを感じられないかと話していたところ、イザナギが出したレーダーのパワーを地上で測定する現場に連れていってもらえることに。やったー! 嬉しい。 測定方法はいたってシンプル。 1. イザナギが九州上空に来る時間に合わせて、あらかじめ「この時間にこの方角にレーダーを出して」と伝えて設定しておきます。 2. その時刻になったら、その場所に行って、地上に測定器を設置して待ちます。 3. 成功すれば、測定器にレーダーをキャッチした反応が出ます。 上空570kmにいるイザナギが出したものを実際にキャッチするという、衛星が見られなくても、これ以上なくイザナギをライブで身近に感じられるイベントです。担当のエンジニアはこういう測定を定期的にやっているんです。こうすることで、どのタイミングでどういうコマンドを送っておけば、どんな風に反応するかという貴重なデータが貯まってノウハウを作ることができます。 この測定は衛星の姿勢の角度が0.5度でもずれると失敗するので、簡単には聞こえますが、すごく大変な作業なんです。しかし、繰り返し行うことで成功率を上げていき、現在は100パーセントの成功率に近づけるよう日々調整しています。