
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第5弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.5 /「ウォークオーバー」のホワイトバックスとダーティーバックス

この靴は、BEAMSにアルバイトとして入社した1985頃に買ったものです。BEAMSで働き始めて一番困ったのが靴でした。当時BEAMSで扱っていたレザーシューズの定番ブランドと言えば、オールデンやチャーチでしたが、そのような輸入ブランドの靴は全て5万円近くしていて、仕送り10万円の田舎から出てきた大学生の自分には買えるものではありませんでした。
配属になった渋谷店はドレスとカジュアルの両方を扱っていて、平日はカジュアルで良かったのですが、土日はタイドアップというドレスコードがありました。当然週末のタイドアップには靴もスニーカーを履くわけにはいかず、当初はすでに持っていたBASSのローファーを履いたりして凌いでいたのですが、さすがに同じ靴ばかりでは先輩たちにNGを出され、中には「そんな安い靴ばかり履かないでオールデンやチャーチを買え」という先輩もいて困っていると、当時一番怖いと思っていた先輩が「ウォークオーバーのホワイトバックスやダーティーバックスをまず買った方がいい」とアドバイスをくれました。
当時のウォークオーバーの値段は確か16800円くらい、それならなんとかなるなと思い、さっそくホワイトバックスを購入しました。ホワイトバックス自体はアイビー少年だった中学生の頃から知っていて、アイビーリーガーのマストアイテムで、ホワイトバックスが古くなって汚れたのがダーティーバックスだという蘊蓄はすでに知っていました。
当時その先輩から教わったことは、ホワイトバックスやダーティーバックスはフレンチアイビーのマストアイテムで、アルマーニのようなイタリアのデザイナーの服にも合わせられ、さらにアメカジ的なスタイルにもあわせられるので、BEAMSのスタッフとして絶対持っておかなくてはならないマストアイテムだと教わりました。
確かに、当時のBEAMSのスタッフたちは、BEAMS Fのようなクラシックなスタイルにもインターナショナルギャラリーのようなデザイナーの服にも、カジュアルなジーンズやミリタリーパンツにもホワイトバックスやダーティーバックスを合わせていて、私もその後入社してくる後輩たちにすすめていたのをよく覚えています。
つまり、高価な靴ではないけれど、当時BEAMSの提案していた様々なスタイルに合わせられ、さらに高級靴が買えない負い目も感じることもなく堂々と履ける、金なし大学生だった自分にとっては救世主的な靴でもありました。その後すぐにダーティーバックスも購入し、以降’90年代に入ってもしばらく色々なコーディネートと合わせて履いていました。
ウォークオーバー自体は1990年代中ごろにブランドがなくなってしまい、2010年にイタリアの会社が復活させるものの、’80年代のものとはラストが変わってしまい雰囲気も変わってしまいました。今でも履けるのですが、自分がBEAMSに入社して初めて買った思い出の靴で、もう手に入らないと思うともったいなくて履けないのです。なので、私の永久アーカイブとして大切に保管してあります。