
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第4弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.4 / M⁻65ジャケット

アルバイトとして入社した1985年頃、すでにBEAMSのスタッフの間でマストアイテムだったのが、ベージュやオフホワイトの「M⁻65」でした。ご存知の方も多いと思いますが、M⁻65は1965年から米軍で採用されたフィールドジャケット(戦闘服)です。
オリーブグリーンのM65は70年代には既に放出品や古着がたくさん流通していて、当時は長髪でベルボトムのジーンズを穿いているような人たちが着ているイメージだったので、個人的にはお洒落に無頓着な人が着るものというイメージでした(長髪にベルボトムは当時のトレンドではありますが……)。
なので、最初にベージュやオフホワイトのM⁻65を見たときは、そのオリーブグリーンのM⁻65と同じものだとは思えませんでした。新人の私には全く知識がなかったので、先輩たちに聞いたところ、ベージュやオフホワイトのM⁻65はパリのフレンチアイビーの人たちの定番で、俳優のイブ モンタンから、ブームに火がついたことを知りました。
当時のBEAMSでは、フレンチアイビーテイストの人たちだけでなく、アメカジ系の人もアルマーニのようなイタリアンデザイナー系のスーツを着ていた人たちも、みんなM⁻65を着ていました。いわばカジュアルでもジャケットでもスーツでも、なんにでもM⁻65を合わせていたほどマストアイテムでした。
当然私もベージュやオフホワイトのM⁻65が欲しくて探すのですが、オリーブグリーンはすぐに見つかるのものの、ベージュやオフホワイトはなかなか見つからず、ベージュをやっと手に入れられたのが1980年代後半になってから。その後’90年代に入りオフホワイトを見つけ、’90年代中頃まで着ていました。
その後、2000年代に入りイタリアでアスペジのM⁻65が大流行し、”M⁻65=イタリア”というイメージを持つ人が多くなったと思いますが、’80年代のフレンチアイビーを知る私によっては、「イタリア人もM⁻65を着るんだ」というイメージの方が強かったです。
このベージュやオフホワイトのM⁻65は、言わば ”BEAMSのスタッフになったら持っていなくてはならない” という洗礼を受けたアイテムであり、私にとっては今も永遠の定番アイテムなのです。