
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第3弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.3 / ギ ローバーのマルチストライプBDシャツ

「今回は、1980年代後半頃の、ギ ローバーのBDシャツを紹介したいと思います。今でこそ誰もが知っているブランドですが、日本でこのブランドが知られるようになったのが1990年代中頃なので、当時はほとんど知られていないブランドでした。
1980年代後半頃は英国調の流れが少し出てきたころなので、クラシックなインポートシャツと言うとアメリカのブランドか英国のブランドが主流で、イタリアのシャツブランドと言えば、アルマーニ風のソフトなシャツが大半をしめていた時代でした。
当時はこのようなカラフルなカラーのマルチストライプやオルターネートストライプがトレンドだったので、自分もアメリカのブランドや英国のブランドでこのようなストライプのシャツを買っていた記憶があります。
このシャツは、当時表参道にあった『GLENS(グレンズ)』というショップで購入しました。イタリアのクラシックな良いシャツがあると聞きつけて見に行ったのですが、グリーンにピンクとパープルと言う、アメリカや英国にはない色使いと、センターボックスのプリーツや綺麗なロールが出る襟など、アメリカのテイストを取り入れたイタリアブランドというのがとても新鮮でした。
ちなみにこのグレンズと言うショップは、赤峰幸生さん(注:数々のファッションブランドを手掛けてきたクラシックメンズウェアの重鎮)がいらっしゃったグレンオーバーのショップだったので、今になって思うと、もしかしたら赤峰さんがバイイングしていたのかもしれません。
その後’90年代に入るとBEAMSでも展開を始め、私がバイヤーになってからすでに20年以上バイイングしていることを考えると、その出会いが’80年代後半に買ったこのシャツと言うのもとても感慨深く、私の捨てられないアーカイブとして残してある理由でもあります。
当時のギ ローバーは、今のオリアンのフェデリコの父親ジャン ガエターノ オリアンとフランチェスコ ラベルダの共同経営でした。ちなみに、当時のギ ローバーのエージェントはプリモ(注:イタリアファッション業界で長年、多数のブランドのエージェントとして活躍するプリモ・グエルチレーナ氏)です。その後ガエターノがギ ローバーから退き1990年に立ち上げたのがオリアンというエピソードもあります。こういう業界の歴史と言う面からみても、自分にとって縁を感じるブランドです」