しかし、単気筒らしく歯切れのよい排気音を吐き出すエンジンをかけ、油圧式で操作の軽いクラッチをつないで走り出すと、戸惑いを楽しさが圧倒していく。エンジンは低速からトルクフルで、その部分は単気筒らしいものの、高回転までよどみなく回っていく感覚は、昔の単気筒エンジンしか知らない人は驚くだろう。
250ccクラス並に軽量な車体なので、入っているギアやエンジンの回転数に関わらず、アクセルを一捻りすればあっという間にスピードが乗る。この組み合わせが楽しくないはずがない。

そしてハンドリングはとても俊敏だ。コーナーでは、高い位置にあるシートに荷重するとスパッと車体が寝て曲がりたい方向に向く。路面が多少荒れていても、押さえやすい形状のハンドルなので不安感は全くない。個性的に思えたシート高やハンドル形状も、このハンドリングを実現するためだったのかと納得のいく走行感だ。

限られた試乗時間だったが、時の経過を忘れて走り回ってしまったほど「ヴィットピレン701」の運動性能は軽やかで楽しさに溢れていた。
国内では絶滅危惧種と言っていい状況のシングル・スポーツだが、馬力にものを言わせるのではなく、軽さと扱いやすいエンジン特性で車体を振り回して走れるこのカテゴリーの面白さは、ほかに代えがたいもの。パワーや最高速などのスペックを追い求めるのではなく、バイクを思いのままに操るという部分にこだわる大人のためのマシンと言えそうだ。それでいて、乗り手次第ではハイパワーマシンを追いかけ回す実力を秘めている。
この楽しさを知らないままでいるのはもったいないと思える極上の味わいだった。
取材・文/増谷茂樹