【#おうち時間充実計画】/映画とファッション #02
まず、“ボンドスタイル”から学ぶ「男が憧れる男」その真相
着こなしが印象に残る映画といえば誰もが真っ先にその名を挙げる『007』シリーズ。なぜジェームズ・ボンドのスタイルは60年近くの長きにわたり男の憧れであり続けてきたのか?M.E.がその真相を探る。

“本物を知り”、“自分なりに嗜む”。だからボンドはカッコいい。
頭脳明晰でスポーツ万能。銃器やマシンの扱いに長け、フォーマルな席での立ち居振る舞いも完璧。博学で美食に通じ、ハンサムな顔と肉体美、粋な話術で世界中の美女にモテまくり……。そんな無敵の英国秘密諜報部員がド派手に活躍する『007』は男のファンタジーだ。
人物造形もストーリーも荒唐無稽。それでも分別ある大人が新作を心待ちにするのは、ジェームズ・ボンドの装いが紳士でありたい男の琴線をリアルにくすぐることも大きい。そう、ボンドの活躍は真似できずとも、スタイルだけは頑張れば取り入れることができる!
無論ボンドの纏うものは常に最高級だ。これには原作者イアン・フレミング自身の好みが反映されている。
第二次世界大戦中に英国の諜報活動に参加した経験をもとに007シリーズを執筆した彼は相当な伊達男で、折り返しカフのついた濃紺スーツに、シーアイランドコットン製のシャツ、水玉のボウタイという貴族趣味の表れた少々キザなスタイルを好んだ。小説でもボンドの装いを事細かに説明しており、これが、映画版歴代ボンドが常に一流の装いをする背景となっているのだ。

ボンドのイメージを確立した彼は第1作『ドクター・ノオ』から第4作『サンダーボール作戦』まで、ロンドンのテーラー、アンソニー・シンクレアで仕立てたスーツを纏った。なおシャツはターンブル&アッサーの“イタリアンカフ”を多く着用。Sunset Boulevard/寄稿者
なかでも007ファンやドレス好きから圧倒的に支持されるのが、初代ボンドのショーン・コネリーの着こなしだ。スーツはロンドンの高級テーラー、アンソニー・シンクレアのビスポーク。
ここは初期シリーズの監督を務めたテレンス・ヤング監督の贔屓の店で、彼はスコットランド出身の無名の役者だったコネリーを同店に連れて行き、スーツを日常的に着させるところから映画作りを始めたそうだ。だからコネリーの着こなしはとても板についている。
なおボンドと言えば正統英国スタイルのイメージが強いかもしれないが、それはちょっと違う。コネリー・ボンドのスーツは、広い肩幅にナローなラペルを組み合わせ、シルエットはウエストの絞りのゆるいスポーティなボックス型。どちらかといえば1960年代のアメリカで流行したコンポラスーツに近い。つまり、王道の英国ではなく、ヒネリを効かせているのだ。

『死ぬのは奴らだ』から『私を愛したスパイ』まではシリル・キャッスル、『ムーン・レイカー』からはダグラス・ヘイワードと、ともにロンドンの凄腕仕立て職人が担当。少し華やぎを感じさせる着こなしがムーアの甘い雰囲気にマッチ。Sunset Boulevard/寄稿者
最もボンドを長く演じた3代目のロジャー・ムーアの場合も、四角四面な英国スタイルではない。英国仕立てながら、淡く柔らかなトーンのスーツや柄ジャケットを積極的に取り入れ、印ロピアンな華やかさも感じさせ、ムーア・ボンドのソフトで明るい雰囲気ととてもマッチしていた。
ボンドスタイルが生粋のブリティッシュでないことをさらに決定づけたのが、5代目のピアース・ブロスナンだ。纏うスーツはもはや英国製ですらなく、イタリアの名門ブリオーニ。
ブロスナンのボンド像は“渋い”コネリーと“甘い”ムーアのちょうど中間とよく評されるが、風格と艶を両立するブリオーニがそんな彼の魅力を引き出すのに一役買っていたのは確かだろう。
BRIONI / ブリオーニ
[ESSENTIAL ブルニコスーツ]

1995年のブロスナン・ボンド1作目『ゴールデンアイ』から、2006年のクレイグ・ボンド1作目『カジノ・ロワイヤル』まで、5作にわたってブリオーニが衣装を提供。威厳と気品を保ちつつイタリアらしい艶を感じさせるスーツは、新たなボンド像を作った。

【5代目(’95-’02)】
ピアース・ブロスナン
下降していた007シリーズの興行成績だが、この5代目を得て一気に上向きに。イタリアのブリオーニの艶やかなスーツが歴代屈指のハンサムさで知られるブロスナンをよりセクシーに見せていた。