「我々の真価は“見えないところ”にこそあります」
(クリスチャンさん)
――今日はお時間をいただきありがとうございます。まず、NPSの歴史についてご説明いただけますか?
クリスチャン NPSは1881年にノーサンプトンで創業されました。「Northamptonshire Productive Society」の頭文字をとってNPSと名付けられ、ミリタリーブーツの生産で成長したメーカーです。ちなみに当地には「Co-operative」と呼ばれる、従業員自身が会社のオーナーとなってビジネスを営む制度があって、NPSも長らくそのシステムで運営されてきました。しかし、1980年代になるとノーサンプトンの英国靴メーカーは軒並み苦境に立たされます。このあたりは靴に詳しい方ならよくご存じですね。NPSも例外ではなく、ビジネスの縮小を余儀なくされていました。
そんな状況の転機となったのが2006年のこと。同じくノーサンプトンで靴の副資材を製造していたアイヴァー・テリーという人物が、NPSの伝統を守るために会社の買収をもちかけたのです。会社のオーナーであった職人たちは彼の熱意に共感し、新たな体制のもとでNPSを再興させることを決意しました。そして、徐々にブランドを成長させ、今では日本をはじめとする海外にも進出するに至ったのです。ちなみにアイヴァーは私の義理の父にあたります。そういうわけで、私もNPSのマネージング・ディレクターとして日々奮闘しているのです。

――なるほど。では、NPSならではの強みとはなんでしょうか?
クリスチャン まず、グッドイヤーをはじめとするノーサンプトン伝統の靴作りを今も守っていること。そして、正真正銘の100%メイド・イン・イングランドであるということです。現在では効率化やコスト削減のため、一部の工程を海外の提携工場で行う英国靴メーカーも少なくないなか、革の裁断から縫製、仕上げまでをすべて自社で行なっているのは我々が誇りとしていることですね。
それからもうひとつ、先ほど申し上げたとおり、2006年にNPSのオーナーとなったアイヴァーはもともと靴の副資材メーカーを経営していましたから、外からはわからない中身の部材ひとつにまでクオリティにこだわっています。優れた履き心地と、長く愛用するための耐久性を叶えるためには、見えないところこそ重要なのです。