「心と体のコンディションを整えるのも才能です」(丸山さん)
丸山 アメフトやラグビーの選手も、全身ぐるぐる巻きでフランケンシュタインみたいだよね。柔道も常に怪我と背中合わせなんですね。
野村 努力や才能も必要ですが、怪我しないこともやはり大切です。野球のイチロー選手のように。
丸山 彼は最後まで怪我しなかった。それはすごいことだと思います。
野村 一瞬だけ輝く選手なら、その時代、時代にいます。その輝きは強烈だけど、背負うものや目指すものが変わりゆくなかで、長期にわたり活躍できる選手はほんの一握りなんです。
丸山 確かに才能があっても埋もれている人が9割だと思う。野村君が悔しさを努力に変えることができたのも、才能のひとつだと思いますよ。今は柔道を教えたりすることも?
野村 国内外で指導者から子どもまで指導しています。
丸山 この子、まだヒョロヒョロだけど才能あるなとか、あります?
野村 あります。ただ、それが本物かどうかはわからない。本人の努力もありますし、成長するにつれて体つきも変わってくるので。
丸山 わんぱく相撲と一緒だ。
野村 子どものときに勝ちやすい技術ってあるんです。でも小手先の技だけで勝ち続けるのは難しくて、基本を大切に、時間をかけて本物の技術を身につけたほうが長く戦える。子どものうちから厳しい鍛錬ばかりでは試練を乗り越えられないですしね。本気の練習はメチャクチャきつい。「練習が楽しい」と言っているやつはある意味、変態ですよ。
丸山 あはは(笑)。
野村 まず子どもたちには、柔道の楽しさを知ってもらうことが大切だと思います。
お家芸は勝っても「柔道でしょ?」 負けたら「柔道のくせに」
丸山 昨年8月に日本武道館で開かれた柔道の世界選手権、日本は大活躍でしたね。
野村 フジテレビで連日、生中継して頂き、わかりやすい映像を使い、理解しやすい用語で解説したことは柔道の魅力を広めるのに大いに意味があったと思います。
丸山 相手をバッタバッタぶっ倒す、すごい選手もいましたね。
野村 大野将平選手。
丸山 そうそう!
野村 パワーのある外国人選手に対し、組み合った瞬間、豪快に投げ飛ばす。これぞ日本柔道!を体現してくれる選手です。柔道は迫力があって面白いスポーツなんですよ。試合の絶対数が少ないだけで。
丸山 ゴルフみたいに毎週末試合があったら、さらに愛されるスポーツになると思うなあ。
野村 今は町道場も減っていますし、スポーツの多様化、また少子化で競技人口そのものが減っている。選手の強化も大切ですが、自分も含めて柔道にかかわる人たちが一丸となって、魅力を伝えなくてはという思いはあります。
丸山 マスコミには柔道をはじめとするスポーツの魅力を、幅広く伝えてほしいよね。スター選手ばかり注目するのではなくて。小さな島国でこれだけ様々なスポーツが普及している国なんて、そうないですから。
野村 僕が歯痒く思うのは、柔道は勝っても「柔道でしょ?」、負けたら「柔道のくせに」と言われてしまうことです。
丸山 日本発祥のスポーツとはいえ、いまや海外の競技人口は増えているのにもかかわらず……。
野村 過去に日本のお家芸と言われ勝てなくなった競技もあるなかで、柔道は創始国の意地と誇りを胸に努力や研究を重ねて好成績を残し続けている。それは、是非みなさんに知ってほしいところですね。

丸山 柔道界を盛り上げるためには、対価としてのニンジンも必要なんじゃないかなぁ。ゴルフ界ではツアーで2、3勝すれば、それだけで十分食べていけますから。選手の気持ちも変わると思う。
野村 それは一理あると思います。
丸山 ボクシングのような賞金大会を開催するとか、夢があるスポーツだということを子どもたちに伝えたいよね。ところで、柔道家にはゴルフ好きな人が多い気がしますが。
野村 同年代の仲間や後輩もゴルフを始めている人は多いです。
丸山 年齢を重ねても楽しめるスポーツだし、アスリートならきっとはまると思う。膝が痛むのなら、カートがあるコースはどう?
野村 実は父がゴルフ好きで、両親と一緒に競わないゴルフを楽しみました。
丸山 親孝行ですね。
野村 生涯スポーツとして今後、無理のない程度に真剣にチャレンジしたいと思っています。ただ、柔道でつくりあげた筋肉が邪魔して、体の回転や腕のふり上げが難しいんです。
丸山 筋肉質の人は、バックスイングのときに右の肩と肘が邪魔して振りにくいものだけれど、いくらでも策はあります。アメリカのアメフト選手にも、うまい人はたくさんいますよ。本気で始めるときは是非、僕にご相談ください(笑)。
[MEN’S EX 2020年4月号の記事を再構成]
撮影/筒井義昭 スタイリング/松純〈丸山さん〉 文/間中美希子 撮影協力/FLUX CAFE