
1998年に登場したニュービートルは「お遊び車」の域を出ていなかったが、2012年登場のザ・ビートルは「マジな車」だった。発売当時としては圧倒的なまでの走行安定性等を有する車へと、そのキャラクターを大きく変えたのだ。
それはそれで歓迎すべき話なのだろうが、「仮にも“ビートル”がそんなにマジでどうするの?」という疑問は残った。
ピースフルで愛らしく、正直ちょっと抜けている面もあることがビートルという車の美点であるとするならば、ちょっとダメな部分もあったニュービートルこそが実は初代の正当なる後継者で、「出来杉くん」的な感が強いザ・ビートルは「……ちょっと違うんじゃない?」とも思われた。言ってみればザ・ビートルは「息が詰まる感じの車」だったのだ。
ところが程よく歳月が経過したことで、ザ・ビートルは程よく古くさくなった。何せ自動で速度を調整してくれる車が多くなった今、ザ・ビートルは自力で速度を調整しなければならない。そんな車を2020年の今、誰も「出来杉くん」とは呼ばないだろう。
各部がいささか古くなったザ・ビートルが販売終了となることについては「やむなし」としか言いようがない。
その販売が終了し、「ビートル」というブランドもとりあえず消滅し、そして最新のゴルフ8が強烈なまでの出来杉くん感を伴って上陸し、定着する頃……この、ちょっとした抜け感が出てきたザ・ビートルの乗り味とデザインは、意外と再評価されるのではないかとも思っている。

文/伊達軍曹 写真/河野敦樹 編集/iconic