突き詰めると見えてくるシエラが人気の理由

先ほどもお伝えしたように、ジムニーは軽自動車である。しかし、それ故にパワー不足や、走りの面で物足りなさがあるのも事実。その足かせを取っ払い、ジムニーたる理想像を具現化したのが、シエラだ。
そもそもジムニーはタフさが求められるため、ラダーフレーム構造、パートタイム4WDといった重量が嵩むハードウェアを採用している。さらに荒れ地をグイグイと進んで行けるパワーが必要となるため、パワーユニットにはターボ化した660ccのエンジンを搭載している。しかし、それでも排気量の小ささ故にパンチ力は足りない。日常における扱いやすさまも考えれば、もう少し排気量の大きなエンジンが理想だ。もちろん乗り心地なども、重心が高い分不利な面がある。
そう、そんな弱点を克服し、ジムニーとしての理想を具現化したのがシエラなのだ。
基本となるボディまで大きくしてしまうとコストが掛かってしまうのでボディは共用とし、フロント、リアともに130mmほどワイド化。それに合わせて前後ともにバンパーサイズもワイド化している。さらに、エンジンは実用性に富み、低中速トルクが豊かな1.5L NAを搭載するなど、ジムニーのウィークポイントをしっかりと払拭している。
このジムニー+αを求めたシエラの設計思想は以前から「あともう少し感」があった。しかし、新型シエラではジムニー+αどころか、ゆとりすら感じさせてしまうポテンシャルが与えられている。オーバーフェンダーも「取りあえず付けておきました」ではないのだ。シエラでなくてはならない理由が詰まっているのだ。だから、スズキが想定していた以上に、国内でのヒットになっているのである。
実際、その乗り味はどうなのか。

実際に試乗してみると?
1.5Lエンジンは低回転域でのトルクを特徴とし、パワー不足を感じさせない。中回転域では欧州車のような頼り甲斐があり、高回転までしっかりとパワーを引き出していく。そこにパンチ力はないが、しっかりと走る愉しさを感じさせてくれる。
オフロードを優先したシャシーはハンドリングに曖昧さはあるし、今どきのコンパクトカーのようなびしっとした直進性はない。しかし、曖昧であろうともそこに独特のリズムがある。もちろん、それはドライバーの意思通りに動かないという意味ではない。こちらの意図を上手く伝えることで互いに認め合えるといった感じ……、つまり対話性があるということ。その探り合いがとてもオモシロイ。
乗り心地は前後に採用されたリジッドサス、そして大径タイヤとの組み合わせもあって、突然の大きな入力に対してはドタンバタンとした動きを見せるが、よくチューニングされたセッティングと、何よりも広げられたトレッドによって、コーナーでの安心感もバツグン。

肝心な4WDシステムはパートタイム式ゆえに4WDに切り替えると低速でぎくしゃくとした動きを見せるが、その分(前後が直結となるため)、オフロードに足を踏み入れたならば、クルマってここまで走ってしまうの?と思うほどの走破性を披露。つまり、スゴい!を愉しめる。
だから、正直、待ってまで購入する価値、十分にあると思う。

惜しむべきは、5ドアスタイルを設定していないことだ。ジムニーに似た存在のジープ・ラングラーは現代求められいる5ドアをラインナップし、大成功を収めている。スズキは、硬くななスタンスを早々に解き、ジムニーシエラに5ドアを設定したほうがいいと思う。
文/吉田直志 写真/柳田由人 編集/iconic