魅せて伝える伝統のエンターテイナー
大胆かつ前衛的な作風や、音楽と共に僅かな時間で作り上げるパフォーマンスで盆栽界に革命を起こした平尾成志さん。型破りな表現方法には批判もあるようだが、彼の活躍で多くの人が盆栽の魅力に開眼したのは事実だ。
「誤解されたくないのですが、僕は日本の文化を継承する仕事に憧れ、この道に進んだ。盆栽の伝統的側面を誰よりもリスペクトしているつもりです」
独特のスタイルは、埼玉県の加藤蔓青園で修業後、海外に打って出る中で徐々に確立していったものだ。ちなみに彼が海外へ目を向けたのは、戦後を代表する盆栽師として高名な、故・加藤三郎師匠の意思を継いだ結果と言う。
「面接に来た僕の顔を見て三郎先生は“盆栽は海外にもっと出ていかなければダメだ”とおっしゃった。80代の人からそんな言葉が聞けたことに感動して、その日のうちに弟子入りを決めたんです」
修業期間は人一倍真摯に盆栽と向き合った。盆栽園の2代目、3代目と違い、平尾さんは修業を終えてもすぐに盆栽園を持てない。だからこそ自身の将来を切り拓くため、腕と感性をひたすら貪欲に磨く必要があったと言う。
5年間の修業期間に加え、専属管理士として1年間蔓青園に勤めた後、師の言葉を胸に盆栽技術指導のためスペインへ。その実績が買われ、以後も様々な国のイベントなどに呼ばれるようになり、2013年には文化庁文化交流使に任命。現在まで世界30ヶ国以上で盆栽の普及活動に従事してきた。

「海外はもちろん、日本の若者にこそ盆栽はカッコいいものだと伝えたい」
「そんななかヨーロッパ盆栽協会の会長を務めるイタリア人の方から、お小言を頂いたんです。“海外に目を向けるのもいいが、私が日本に行った時、若者が盆栽に興味がないのに驚いた。これはまずくないか?”と。その通りだと思い、その後は日本の若い世代に盆栽のカッコ良さを伝えるべく、日本でのイベントや講演活動にも一層力を入れるようになりました」
撮影は彼が2016年に開設した盆栽園「成勝園」にて行った。長身痩躯な体型に華やぎを感じさせるピークトラペルのスーツが合う。
「普段はほとんど着ませんが、スーツを着ること自体は意外と好き。身が引き締まるし、歩き方も変わる。ダサいヤツがいくら盆栽はカッコいいものだと言っても説得力がないので、これから人前に出る時は、もう少し積極的にスーツを着ようかなと思っています」
平尾さんのSUIT
UNITED ARROWS / ユナイテッド アローズ

2019年SSシーズンより登場し、同ブランドのなかでも人気を博す「Sモデル」のスーツ。肩の丸みやパンツのテーパードラインなどの現代的なシルエットと、独自の構造による着心地の軽さが魅力。通常の濃紺とは一味異なる、淡いネイビーの色味も洒脱。7万8000円(ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店)
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[MEN’S EX 2019年12月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)