1号機は12月にインドで打ち上げ予定
QPS研究所は、人工衛星開発や宇宙エレベーター、宇宙ゴミ問題に取り組むパイオニア的存在である九州大学の教授たちと三菱重工のロケット開発者により2005年に福岡にて創業されました。 現在は若き宇宙工学博士がCEOとなり、九州北部にある約20社の地場協力企業との強いチーム体制のもと、地球を観測する世界初の100kg級の「超小型反射鏡アンテナ式SAR(合成開口レーダー)衛星」の開発に成功。いよいよ来月には、インドのサティシュ・ダワン宇宙センターから記念すべき1機目を打ち上げる予定です。 これから約4年をかけて同型の衛星を計36機打ち上げることで、約10分おきという準リアルタイムでほぼ地球上のどこでも希望の場所を観測できる、もしくは、特定の場所を10分ごとに定点観測できるようになります。 そのデータにより、あらゆるビジネスや防災に役立てられる新しいインフラを構築していこうという、非常に壮大なプロジェクトなのです。 さて、冒頭のロケットに相乗りする話に戻りますが、それがまさにまもなく宇宙に向かう弊社の小型SAR衛星1号機です。 今回相乗りさせてもらうのは、インドの宇宙センターから打ち上がるロケット「PSLV-C48号」。インドの主衛星が乗っているこのロケットの空いたスペースに入れてもらうんです。 郵便局で荷物を測って料金を決めるように、衛星も運んでもらうには大きさや重さを測って金額が決まるらしいのですが、これが衛星の重さが1kg増えるごとに数百万円増えるとのこと。もともとロケット1台打ち上げるには数十億円~数百億円かかるらしいので、その相乗りでも数億円という料金に・・・! 相乗りさせていただくと確かにお安く行けるのね、とは思いながらも、う~ん、0の数が多い・・・。

イメージするのは妊婦検診に桃太郎!?
ここでそのQPS研究所の小型衛星がどんなものかをぜひご紹介させてください。先ほど、「世界初の100kg級の超小型反射鏡アンテナ式SAR(合成開口レーダー)衛星」と書かせていただきましたが、まず、SARとはなんぞや、です。 現在、世界で活躍している地球を観測する衛星の多くはカメラがついていて、目で見るようなきれいな画像データがとれるのですが、悪天候のとき(雲があるとき)や太陽の光が当たっていない夜には残念ながら観測することができません。 でも、例えば夜に起こった災害でも、すぐに状況を確認して判断できれば、必要な対応を早急にとることができます。天候や昼夜問わず観測できれば、防災やビジネスにおいて可能性が広がります。 そこでQPS研究所が選んだのがSAR(Synthetic Aperture Radar)、合成開口レーダーです。マイクロ波を地表に向けて発射し、地表から反射してきたマイクロ波をとらえてデータを取ります。イメージは妊婦さんの検診のときのエコーのような画像。レーダーなので雲があっても夜でも観測することができるんです。 「それってすごい!」と興奮しました。しかし、このレーダーは大きなアンテナとたくさんの電力が必要なので、小型化することが難しく、これまでのSAR衛星は1~2トンの大きさがあって開発には数百億円かかっていたそうです。 さらに、常に観測を続けるためには上空に何機も飛んでいる必要があります(1機では地球の裏側にいたらすぐには駆けつけられないので)。つまり1機で数百億の衛星を何機も飛ばすには、膨大なコストが必要だったんです。 そんな中で、QPS研究所は、収納性が高く軽量で大きなアンテナを開発することに成功しました。それにより、コストのハードルをクリアすることができたのです。このアンテナ(下のイラスト参照)は特許がとられているんですが、複雑な数式によって生み出された本当に美しくてうっとりする逸品です。なんてきれいな曲線!

そして、1mという高分解能(これは高い解像度で、地上の自動車が判別できるくらいを意味しています。この業界は「分解能」っていう言葉を使います)なのに、100kg級と今までの20分の1の重さ、そしてコストも約100分の1なんです! とまあ、色々書きましたが、要はこの衛星のプロジェクトによって、数年後に、準リアルタイムマップのような世界の構築を目指している、ということなんです。 そんな世界が現実になった時、みなさんはどこの何が見たいですか?

このプロジェクトはまさにリアル下町ロケット。福岡の地場企業の高い技術に支えられて完成した初号機は、12月にはいよいよ宇宙へ飛び立ちます。当連載では、これから、この人工衛星の開発ストーリーや目指す未来、宇宙ビジネスの興味深い話について(そして時々、福岡の美味しいものなども)少しずつご紹介させていただければ嬉しいです。 (つづく)
関連リンク:株式会社 QPS研究所
文/有吉由妃(QPS研究所) 写真/QPS研究所