「若い頃は二枚目俳優と呼ばれるのがとても嫌でした」
さすがモデルからキャリアを出発させた草刈正雄さんだ。本人はお洒落音痴と語るが、3ピースを実に美しく着こなし、フォトグラファーが要求するポーズもことごとく自然に決める。
NHKの朝ドラ『なつぞら』で演じた偏屈で頑固、そして包容力の大きな“おじいさん”の記憶が新しいのに、今日は大ヒット映画『汚れた英雄』のその後を思わせる、完璧な二の線でカメラの前に立ってくれた。
「二枚目俳優というレッテル、昔は嫌いでした。他の面も見てくれと突っ張っていた。若かったんですね。今ならありがたくやらせていただきますけど(笑)」
当時の草刈さんには、二枚目役だけでは行き詰まるとの危惧もあったのだろう。実際30代半ばから長らく役に恵まれなかった。
「当たり前ですよね。九州の田舎から出てきてモデルとなり、勢いで俳優となった僕は、芝居をロクに勉強していなかったわけですから。そんなときある大女優さんから“舞台をやりなさい”と勧められた。最初は怖かったんですが、フィルムの仕事が減っていたものですから、思い切って出てみたんです。これが自分でも意外なほどハマった。そこでしばらく舞台の仕事を続けたのが、今に生きている気がします。
なんせ3時間ノーカットで演じたりしますから、いくら僕でも自信がつきます(笑)。そうこうするうちに三谷幸喜さんが舞台に呼んでくださいまして。それはコメディで、普通なら僕に割り当てられるような役じゃなかったのに、ノリノリで演じられた。僕がイメージを裏切りたいと考えていたことを見抜いていたんですね。本当に役者をよく観察している人ですから」
浮き沈みを経て行き着いた自然体の深みある演技
その舞台の成功が、三谷さん脚本の2016年の大河ドラマ『真田丸』の真田昌幸役に繋がり、60代にして再ブレイク。今年も朝ドラで自ら“役者人生ベスト5に入る”と言う当たり役を得た。
「『なつぞら』でも脚本家の大森寿美男さんが役者冥利に尽きるようなセリフをいっぱいくださいました。長く役者にしがみついてきて本当によかった」
ちなみに草刈さんは緻密に役作りをするのではなく、台本から感覚的に役のイメージを掴んで撮影に臨むという。様々な経験を積み重ねてきた自信があるがゆえの“自然体”だろう。
最後に、今後演じてみたい役を聞いた。「それが不思議とないんですよ。この役をやりたいというより、役者・草刈をうまく料理してもらいたい。いただいた役の中で精一杯頑張りますから」

三谷幸喜監督最新作『記憶にございません!』では、官房長官役を好演する。映画は全国東宝系にて公開中。
草刈さんのSUIT
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[MEN’S EX 2019年12月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)