ちょっとした不便さも「これでいい」と思える

では、トゥインゴのRRレイアウトはどんなメリットがあるのか。先に述べたようにスペース効率に優れるため、全長3645mmというコンパクトボディながらそこそこにキャビンスペースを確保できたこと、フロントにエンジンなどが存在しないためフロントタイヤの切れ角を大きくでき、軽自動車のセダンレベルを下回る最小回転半径4.3mとしたことなど。そう、コンパクトカーたる合理性を実現するに必要なレイアウトだったのだ。
現行型である3世代目トゥインゴが日本上陸を果たしたのは2016年のことで、ここで紹介するのは今年の8月に発表されたマイナーチェンジモデル。デビューしてから販売期間が短かったと思われたかもしれないが、本国では2014年から販売されており、このマイナーチェンジモデルも今年の春に発表されたばかりだから、ルノーのモデルとしては妥当といえる改良スケジュールとなっている。改良内容は、LEDを用いたCシェイプヘッドランプを採用した新しいフロントマスク、安全装備に車線逸脱警報システムを装備するなど、細かなもの。
しかし、よくよく眺めてみると、ヘッドランプユニットにLEDを用いたといっても、ポジション、デイタイム、ウインカーに限るもので、肝心なヘッドランプの光源はハロゲンのまま。安全装備だって、イマドキは軽自動車ですら被害軽減ブレーキを備えているというのに、トゥインゴは車線を逸脱した際の”警報”のみ。でも、僕は、これがいいと思っている。クルマは制御されればされるほどに愉しさを失っていくし、50代にもなるとヘッドランプだってLEDやHIDのあの白さは目に痛い。だから、この設えは、自分にとっては、大歓迎だ。

このマイナーチェンジで何よりもうれしかったのは、スマートフォンとの連携を実現した7インチタッチモニタの採用だ。訊くところによると、最近、ルノーを購入する人たちの半分は、そのままではナビがない、テレビが観られないことを嘆くのだとか。それらは、あるに越したことはないアイテムかもしれないが、オリジナルデザインを崩してまで組み込むスタイルは”どこか違う”と感じるし、システム的に無理矢理な割り込みを行っているために、突然に操作できなくなったり、表示がおかしくなったりすることがある。僕はそういったスタイルをローカライズとは表現したくない。だから、このスマートフォンを活用しようというアプローチ(iOSはCarPlay、AndoridはAndroidAutoにて対応)はとってもいいと思う。
肝心な乗り味に対しては、過度な期待はしていないが悪くなるはずがないという前提で乗ってみたところ、随分としなやかさを増したように感じた。例のごとく、本国からサスペンション改良についてのアナウンスはないというが、ただ、グローバルに2タイプ設定されていたサスペンションは1つにまとめられたとか。
実は、マイナーチェンジ前の日本仕様の全高は1545mmで本国仕様よりも10mm低く、つまり、本国仕様と日本では異なるサスペンション(スプリング)が採用されていた。今回は、日本で採用されていた短いタイプを標準としたようだ。ただ、全体ではしなやかさを感じたサスペンションの動きも、細かく読み取ると、路面の凹凸をトレースしきれずにコトコト感をキャビンに伝えてくるところもあり、このあたりは”このクラスなり”を感じた。

エンジンは、これまで同様に直3 0.9Lターボを搭載し、トランスミッションはデュアルクラッチタイプの6速EDCを組み合わせる。ターボゆえ、EDCゆえに、発進時のトルク変動は隠し切れず、2ペダルモデルとはいえ発進にぎくしゃく感が存在する。しかし、一度走り出してしまえば、ターボによる加速感とEDCによるダイレクト感が、ワクワク感に通じる愉しさを引き出してくれる。ハンドリングは軽快そのもので素直さがあって、「いいなぁ、これ」と、ついつい言葉を発してしまうほど。
先に述べたRRレイアウトのウィークポイントである挙動の乱れはなく、このパワーである限りリアがブレイクしそうな気配は全く感じられない。それどころか、ステアリングを切り足していくとロールとともにリアタイヤのグリップがどんどん増していき、愉しさがさらに湧き出してきて、どうにかしてこの歓びを言葉に表現したくなってくるほどだ。リアシートにおいては座面長は不足しているもののアップライトなポジション含めて、適度なタイト感がもたらす居心地の良さを感じた。もちろん、リアからのエンジンノイズはダイレクトに届くが、しなやかさあふれる乗り心地のほうが印象に残った。
こうなってくると、先に挙げたようなウィークポイントは気にならなってくるし、愉しさに浸っていると、いつしかトゥインゴから、ウィークポイントがあってもいい、それを忘れてしまうほどの愉しさがあるならば、それこそが合理的じゃない? そんな問いかけをされているようにすら感じた。