工場見学の時間を間違えるという痛恨のミス!

乗り遅れないように早めにやって来た新宿駅。東京駅の弁当の充実ぶりに比べると、選択肢は少ない。洒落っ気を出してスーパーフードのキヌアのサラダと、アルミ缶入りの白ワインを買った。これから暴飲暴食の予定なので、軽めにとの配慮から。
あずさの車内販売はなくなったと聞いていたが、やって来た。弁当類はなく、コーヒーなどを買える程度。あずさは西へ。都区内は「これでも特急?」というくらいのんびり運転。八王子を過ぎると車窓から見える景色の緑が濃くなる。半夏生の白い葉が雨露に濡れて美しい。勝沼を過ぎると雲は厚いままだが、雨は小降りに。ブドウには袋がかけられていた。

小淵沢の駅からタクシーで移動。サントリー白州蒸留所にてウイスキーの醸造過程を見学する予定なのだ。インターネットで予約も完了している。受付を済まし、颯爽と中に……と思ったらリストに名前がないという。
「そんなバカな」と予約確認のメールを見せると、ボクが予約していたのは11時半の回だった。愕然としつつ、結果的にドタキャンになったことを謝る。12時半の回は満員で、入り込む余地はないという。否応なくフリーで見学できるウイスキー博物館をまわることに。
どうやら酒の工場見学は縁がないのかもしれない。札幌と小樽の2つのビール工場は予約こそ不要だったが、どちらもほんの5分差くらいでツアーに入れなかった。そういう星の巡り合わせなのか。
博物館の中で往年のサントリーのCM曲が流れていた。開高健や山口瞳など錚々たるメンバーが揃ったサントリー(寿屋)宣伝部のすごさはボクが語るまでもないだろう。個人的に一番好きなのは新オールドの「恋は遠い日の花火ではない」って名コピー。長塚京三がジャンプするCMは素敵だったな、と今、改めて思う。



ウイスキーは大人の酒だ。だから若い頃はちっともうまいと感じなかった。キツすぎて、他の酒をしこたま飲んだ後に勢いで飲んでみると翌朝、ツライ。香りも味も何もかもが苦手だと思い込んでいた。いつからだろう、ウイスキーをうまいと感じたのは。若さに任せて無茶な飲み方をしなくなった頃からか。
そういえば、昔は大人の嗜みを教えてくれる先輩が公私ともにいた。今現在、自分は先輩から受けた恩を若い人に還元しているだろうか? ウザいと思われるのが嫌で、そんな役割をきちんと果たしていないのではないか? なんて年寄り臭いことを考えながら博物館を巡る。

ひと通り見学を済ませた後、バーへと向かう。一歩踏み入れた途端にウイスキー香が漂う。「いい香り」と呟く女性がいた。同感。ここでは有料でテイスティングができる。迷った末に頼んだのは「白州ブランドセット」(700円)。
通常の白州と18年ものがセットになっており、そこに比較のためニューポット(100円)を加えてみた。山崎18年、白州18年、響き21年がセットになった「超長期熟成ウイスキー体感セット」(1800円)も迷ったのだが、いつか山崎工場に行った時でいいか、と思い前者を。
さて、ニューポットがウイスキーの赤ん坊っていう表現はよくわかる。人は年取ると個性が出てキツくなるけど、酒は逆で最初の方がキツイのだ。ちなみにすべて15ml。グラス少量がちょこんとやってくる。
単品で白州25年もあるのだが、15mlで2900円の値がついている。ウイスキーの原酒不足が叫ばれ、年数が経っているものの価格が高騰しているので当然ではあるのだが、ここではカードが使えなかったのでやめた。というのも、この旅の出発前がバタバタで、現金を下ろしているヒマがなかったのだ。いや、本当は25年を飲みたかったけど、2900円の値段にひるんでやめたというのが事実である。
ここで小淵沢駅に戻る。その理由は?


この時点で、14時半。キヌアサラダだけだとどうにも腹が空く。このまま今宵泊まるホテルに直接、向かうつもりだったが、小淵沢駅に一度、戻ることにした。15時過ぎにシャトルバスが駅からホテルまで出ているので、その前に駅の中にある丸政で山賊そばを食べたかった。

食券を買ってカウンターに置く。すぐにガッツリ揚げた肉厚の鳥の唐揚げ的なものが乗った丼が出てきた。「どこで食べてもいいですよー」と、店員さんの気楽な感じがうれしい。屋上もあるそうだが、雨がポツリと落ちてきたのであきらめた。
平たく黒いそばは繊細な更科系とは真逆。でも、コシはそこまで強くない。それが駅そば、立ち食いの味。見た目黒いつゆは甘辛いけど、しつこくない。汁が衣にジュワッとしみる。どこか懐かしい。こういうもの食べるとスーパーフードなんてしゃらくせえ、って感じたりもして。