BMW史上最強のストレート6

BMW Mの最新版ストレート6エンジンともなれば、基幹モデルであるM3にまずは積まれて然るべき、だろう。けれどもBMW Mはそれを、新型「M3」ではなく、新型「X3 M」に積んできた。もちろん登場するタイミング、というものもある。けれども、これから主力となる新開発エンジンをまずはSUVに積んだという意味は決して小さくないと思う。
次世代のMを担うストレート6の名は「S58」。340iやX3 M40iに積まれている3リットル直6ツインターボエンジンの「N58」とは、型式名の数字こそ同じながら、共通するパーツは10%程度だという。数々の最新テクノロジー(たとえばヘッドは3Dプリンターで製造)と、レースフィールドの経験を生かしたエンジンで、実用トルク域を十分に長くとりつつ、高回転域でも楽しめるエンジンとなった。パワー&トルクスペックを見れば、この「S58」がBMW史上最強のストレート6であることが分かる。
「X3 M」、そしてクーペ版「X4 M」の国際試乗会は、BMWのSUVを生産するアメリカで開催された。ちなみに「X3 M」もアメリカで組み立てられているが、パワートレーンはドイツ製だという。

集合場所となったニュージャージー州郊外のホテルで、まずは「X3 M Competition」のキーを受け取った。近頃のMモデルのグレード体系は少々ややこしくて、”ノーマル”Mの上に、よりパワフルな Competition(コンペティション)、さらにモデルによってはいっそうレーシーなCS(クラブスポーツの略)が設定されている(さらにこの上にはCSLがあるらしい)。「X3 M」の場合、コンペティションとなると、内外装のスポーティさとラグジュアリィさが増すほか、最高出力も+30psの510psとなる。
ホテルの駐車場から走り出した瞬間、「硬いな!」と思わず声が出た。21インチタイヤは路面からのショックを乗り手の身体にはっきりと響かせる。全体的にライドフィールはガッチリとしていて、太い骨格にメリノレザーとカーボンパネルを被せた車内にいるようだ。ひょっとするとスーパーカーのマクラーレンより硬く感じるかも、と思いはじめたころにようやく、マイルドなライド感覚になってきた。
速度があがるにつれて、路面の凸凹や段差のいなしが上手になり、大きなタイヤを震わせることもなく、ショックをビシッと一発で収めて、フラットなドライブフィールをみせる。タンタンタンとリズミカルに走るハイウェイの巡航などは、この上なく気持ちがいい。
低回転域から溢れ出る600Nmものトルクが、決して軽くはないSUVをまるでスポーツカーのように走らせる。SUVだというのに、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間に車体が反応する。ブレーキの効きも素晴らしい。
けれども、このクルマの本領がその程度では決してないことを、われわれはサーキットで思い知った。
会員制サーキットを貸し切って行なわれたテストには、「X4 M Competition」が供された。基本的には「X3 M」と同じ性能だが、よりワイドで低い車体がサーキットにお似合いだ。
ドライブモードを全て「スポーツ+」(もっともハード)にして走り出す。腹の奥底、骨まで響くエグゾーストノートを楽しみながらの加速は、もはや完全にスポーツカーのそれだ。さらに、コーナリングの素晴らしさといったら!
視線が高く、それだけ見晴らしがいいうえ、前輪を思い通りの場所に置けるという安心感=一体感がドライバーをいっそうその気にさせた。SUVなので、少々の段差も気にならない。可能な限り短いスパンでコーナーを済ませつつ、激しく攻め込んでいく。四輪駆動の安定感と、M5ゆずりのシステムが、抜群のコントロール性を与えていた。
これは正に、「背が高いM3&M4」である。
文/西川 淳 写真/BMWジャパン 編集/iconic
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