日本人の国民性は、ビスポークのモノ作りに向いているか?

サイモン 皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます。日本のモノ作りが世界的な人気を博している今、ここ東京でシンポジウムを開催できたことを大変嬉しく思います。では、早速討論を始めていきましょう。まず、昨今の日本においては優れたビスポーク職人が次々と登場し、活躍していますが、その理由はどんなところにあると思われますか? 日本人の国民性がビスポークのモノ作りに向いているのでしょうか?
鴨志田 そうですね。世界的に見ても日本人はモノ作り全般が好きな国民だと思います。服飾だけでなくライフスタイル全般において、いわゆるアルチザン、職人の世界というものは、昔から日本人が好むもののひとつですね。
サイモン 日本人の気質がハンドワークに向いているということでしょうか?

上木 ひとつのことに没頭して、寡黙に取り組むのが向いているのではないでしょうか。それから自分たちが作ったものに対しても、その魅力を言葉で説明するのではなく、モノ自体を見て価値を感じてもらってこそ職人の仕事だという美意識がある点が特徴的だと思います。
福田 細かいところを追求するのが好き、見えないところまで完璧を求めて丁寧に仕上げたいという意識は多くの日本人職人が共通して持っていますね。
サイモン なるほど。日本の職人は謙虚であるというイメージがありますが、今のお話はそれを裏付けるものですね。

福田 確かに、ある面での謙虚さは日本職人の特性だと思います。たとえば、日本の職人は自分が作ったものが世界一とか、完璧であるとはまず言いません。もし完璧なものを作ることができたなら、そこでやめてしまえばいいという観念があるのです。だから職人たちは、少しずつでも日々進歩しようと常に技を磨き続けます。人に対してというよりも、自分のモノ作りに対して慢心しないという意味での謙虚さでしょうか。
平澤 私はイタリアの職人と会う機会が多いですが、彼らのほうが自分を主張してくる傾向が強いように感じますね。日本人は実力と自信があっても、多くはそれをひけらかすことを好みません。
サイモン 日本人の美徳ですね。ところで、一般的に日本の方々はビスポークというものにどれくらい関心を持っているのでしょうか?

平澤 ファッションに興味がある人は少なからずオーダーにも関心を持っていますが、ビスポークとなるとまだまだ敷居が高いのが現状ではないでしょうか。メイド トゥ メジャーやパターンオーダーとビスポークの違いを認識していない人も多くいると思います。
鏡 メイド トゥ メジャーがかなり進化した今となっては、”ビスポーク”の定義も難しいところがあります。注文主のために型紙を起こして、対話しながら仕立てるという辞書的な説明だけでは、お客様に本質を理解していただくのは困難でしょう。
上木 日本ではビスポークでもパターンオーダーでも、「オーダーする」という言い方が一般的ですからね。

鏡 ビスポークの最も基本的なところは、会話のキャッチボールであるということです。「この通りに作ってください」という一方的なリクエストだけではなく、注文主と作り手が意見を交換し、価値観を共有していくのがビスポークの大前提。ビスポーク入門の際には、まずこのことをお伝えしたいと私は考えています。
