
ステアリングの裏側には、アルミ製のシフトパドルが備わる。そして、握ると右手の親指の位置にくる「S」のボタンで「GT」「スポーツ」「スポーツプラス」の3種類のドライブモードの切り替えを、左手の親指の位置にはダンパーのマークの入ったスイッチがあり、減衰力を任意で調整できる。

ゆっくりと右足に力をこめれば、グランドツアラーにふさわしく、滑るように走る。そして、スポーツモードに切り替え、アクセルペダルを強く踏み込めば、強烈な加速の波が押し寄せすべての景色を一瞬で過去のものにしていく。V12モデルに比べれば100PSくらいパワーは落ちるようだが、4気筒分軽量化されていることもあって、軽快さではV8モデルが勝っている。ニュートラルなステアリング特性で、その気になればワインディングだって気持ちよく走ることができる。

正直にいうと、かつてのアストンマーティンは、デザインはいいけれどもハンドメイドを多様する工芸品的な部位も多く、工業製品としての信頼性はいささか欠けていたように思う。しかし、2005年の先代ヴァンテージのデビュー以降、品質は着実に高まり、またダイムラーとの提携によって少量生産メーカーが自社だけでは開発しにくいインフォテイメントシステムなども、メルセデス譲りの最新のものになっている。
ロールス・ロイスがBMW傘下で、ベントレーがVW傘下で息を吹きかえしたように、英国のクラフトマンシップとドイツのエンジニアリングの組み合わせは、とても相性がいいようだ。車両価格は約2300万円、競合他社を見回しても決して高くはない。むしろ狙い目だとすら思えるのだ。
文/藤野太一 撮影/柳田由人 編集/iconic