お店を通じて作り手の思いを伝えたい
オリジナル製品がセレクトショップの売り上げの中心である以上、インポート商材は店の雰囲気付けとしての位置づけになってしまう。今後、この傾向は強まり、近い将来、インポート製品の市場が縮小するのではないかと渡辺さんは危惧したのである。卸す数量が減れば、渡辺産業が英国から仕入れる量が当然減ってしまう。すると、英国ブランドの中には工場の規模を縮小したり生産方法を切り替えたり、最悪の場合、廃業するものも出てくるかもしれない。
「私たちの大好きなイギリスのファッションを支えているクラフツマンやブランドが姿を消してしまうのは寂しくありませんか」
渡辺さんは予想した状況になる前に、直営店を持つことで英国ブランドの活躍の場を確保したいと考えたのだ。そこで10年前に新丸ビル(東京)にショップをオープンしたのに次いで、東京・青山やGINZA SIXにも直営店を構え、現在は全8店舗(※)とオンラインショップを展開。事業は順調だ。
※2019年4月19日オープンの札幌店を含む

「ブランドを認めてもらうためには作り手の思いを伝えることが重要です。製品の魅力や価値に納得してから購入していただきたい。そのためには、やはり顔と顔。お客様と販売員の対面がなくてはなりません」。
数年前に、直営店の名称を変更し、いまではすべての店舗が「ブリティッシュメイド」の店名になっている。これも英国ブランドの専門店であることを、より分かりやすく伝えるための工夫だ。
貴重な体験の出来る英国ツアーを開催
取り扱うブランドのストーリーを、さらに深く顧客に伝えたいとの思いから、今年2月25日〜3月1日の期間、ブリティッシュメイドツアーズが開催された。これは、渡辺さん同行のもと、参加者が英国のノーサンプトンやロンドンを巡り、ジョセフ チーニーやドレイクスの工場、タナリーなどを訪問・見学するツアーだ。ほかにもツアーでは醸造所でクラフトビールを飲んだり、郊外のマナーハウスでアフタヌーンティーを楽しんだりと、特別な体験が用意された。熱心に英国ブランドを愛好する顧客が参加し、評判は上々。「これからもツアーを続けていきたい」と話す渡辺さんの表情からは、確かな手応えが読み取れた。

時代に左右されず、質実剛健で長く愛せる。そんな英国ファッションは、決して廃れることはない。この先も渡辺さんは、さまざまな手法で英国製品の魅力を、私たちに伝えてくれるだろう。もし、魅力に触れたければ、まずはブリティッシュメイドに足を運んでほしい。きっと渡辺さんの思いを感じ取ることができるはずだ。

撮影/久保田彩子 取材・文/川田剛史