
アイスバーン箇所に踏み込まないよう、定常円を狭める工夫も試してみたが、ノーマルモードでもスノーモードでも、オーバーステアを維持することがままならない。思い切りが足りないのかと、さらに振り回してみると、最初の何秒かはトルクの前後配分調整やESCによるトルクの間引きなどで安定しているのだが、忘れた頃に残っていたヨーで、全体が外にゆっくり逃げ始めるような動きをする。これは2のスラロームで左右にふるような状況でも同じくだった。
とはいえ、X-ICE3がグリップしている範囲では、ひたすら忠実に弱アンダーステアを保ち続ける。要はティグアン4モーションは徹底して安定志向のシャシーのようで、振り回すようなことは考えない方がベターなのだ。
逆に感心させられたのは、1.の凹凸路面。普段は駆動輪であるフロントの片輪だけが穴ぼこに落ちてしまって静止した状態からの、ゼロ発進だ。通常のFFなら片側だけにトルクが寄ってしまい、4WDでも元々のメカニカル・グリップが弱ければトラクションが限られてしまうような状況といえる。スノーモードに入れ、とくに気を使うでもなくアクセルを踏めば、よほど注意していないと分からないぐらい一瞬の短い空転を挟んだ後、車体が前へ動き出す。4モーションのシュアな仕事ぶりだが、堂の入った黒子っぷりにちょっと驚かされる。

ティグアン 4モーションに積まれるTDIは、2リッター ターボである点こそパサート オールトラックと同じだが、150ps・340Nmの、よりマイルドな仕様。あらゆる「困難フリー」仕様というか、ドライバーの操作ひとつで正しいモードを選択しさえすれば、あらゆる路面を安定して切り抜けられるというスマートなキャラには、徹底して安定志向のシャシーが合っているのだろう。実際、雪道に至る以前の段階でも、スタッドレスとしてはトレッド剛性が高くドライ路面走行時のスタビリティが高いミシュランX-ICE3は、ティグアンのキャラクターに合っている。
時々いわれるように、ディーゼルはガソリンエンジンより概して重くなるからこそ、その特性をよく知るタイヤメーカーのスタッドレスタイヤこそが、正解といえる。クリーンディーゼルが日本よりも早く普及した欧州の、生え抜きのコンストラクターとタイヤメーカーであるからこそ、VWとミシュランの組み合わせは雪道で信頼に足る組み合わせといえる。
文/南陽一浩 写真/フォルクスワーゲン ジャパン 編集/iconic