クラシコイタリアのブランドに出会う
「ドレスクロージング担当になって、少しするとクラシコイタリア(※)のアイテムが入荷してきたのです。23歳から24歳頃の私には衝撃でした。それまで扱っていた製品はオリジナルが中心で、イタリアものといえばデザイナーズブランドが大半だったので」。
※1990年代後半ごろから、広く知られるブランドではなく、イタリアのファクトリーや工房が手掛ける自社ブランドが注目を集めはじめた。作りのよさとイタリア的に解釈したクラシックスタイルが特徴のこれらは「クラシコイタリア」の名で一世を風靡した。当時、ルイジ ボレッリのシャツを見た坂戸さんは、なぜ2万円もするのか? と驚いたという。ほかにも、ギ ローバー製のシップスオリジナルのシャツも店頭には並んだ。この時代、シップスではオリジナルでアメリカ製やフランス製のシャツを作っていたけれど、イタリア製のものは襟の雰囲気が明らかに違っていて、新鮮に感じられたのである。

スーツに続き、イタリア靴にも魅了された
坂戸さんがこれまでに見てきたシャツとは、劇的に異なるクラシコイタリアのシャツは、目新しい存在ではある。が、知られていないうえ高額となれば、お客様に買ってもらうのは簡単ではない。しかし、丁寧に説明すれば洋服の好きな方に選んでもらうことができた。坂戸さんは「みなさんが持っていないアイテムだったので」と謙遜するが、うまくいったのは坂戸さんの熱心な説明や、接客の巧さがあってこそだろう。
続いて坂戸さんが驚いたのはベルベスト。目利きの確かな先輩がバイヤーになり、買い付けたことから、勧められて買ってみたところ、作りも見栄えも、たちまち気に入ってしまった。徐々にクラシコイタリアブームが浸透していく中、一歩遅れて脚光を浴びたのがイタリアのシューズである。
「イタリアのスーツに合わせる靴がないだろう、との考えから、イタリアの靴の買い付けが始まりました。ボノーラは2足持っていましたね。ほかにはサントーニも。スクエアトゥ、ノルベジェーゼ製法のものが印象的でした。履き心地がよくて、当時のイタリアのスーツにも似合うし。一番好きだったのは、シップスで取り扱っていたストール マンテラッシです」