近頃、エグゼクティブの間でますます話題のアート。知識を広げ、ビジネス会話を広げるためには、アートの「用語」にも精通しておきたい。

“無限成長美術館”【ビジネス”ART”会話#13】
生涯芸術を愛した建築家のひらめきに触れる
「無限成長美術館」とは、20世紀建築の巨匠、ル・コルビュジエ(1887 – 1965)が発案したコンセプト。それは、”どんなに収蔵する美術作品が増えても建物自体が拡張していき、無限にアート作品を展示できる”という建築構想だ。ともすると荒唐無稽な考えに思えるかもしれないが、自身も画家であり芸術をこよなく愛していた彼は、「人間は芸術に触れることで豊かな精神性を持ち、幸せを感じる」と信じていた。それゆえに尊い美術作品は増え続けるべきであり、美術館の空間もそれらを保存するために永遠に成長しなくてはならないと考えていたのだ。この斬新なアイデアを実現した美術館は、インドに2館(アーメダバード、チャンディガール)、そして日本にしか存在しない。それが、世界文化遺産に登録された上野の国立西洋美術館である。
展示は、野心に燃えてパリにやってきた青年時代のル・コルビュジエが制作した絵画に始まり、彼が1920年代のパリで刺激を受けたパブロ・ピカソ、フェルナン・レジェら20世紀を代表する巨匠たちの絵画、彫刻作品へと続く。本展は、彼が愛した名品を、自身の建築理念を実現した「無限成長美術館」で鑑賞できる夢のような機会となっている。「絵の後ろにある壁や柱など建物全体を味わいながら作品を観てほしい」とは、副館長の村上博哉氏の言だ。ル・コルビュジエの無限の発想力を、会場全体から感じ取ってほしい。
絵画から建築、都市計画、集合住宅まで手掛ける多彩な活動に注目

ル・コルビュジエが、パリ国際装飾芸術博覧会(1925)のパビリオンとして公開したのが、この集合住宅のモデル。平面的で何もない「白い箱」のような部屋は、エグゼクティブたちが芸術を愛でる空間として作られたもので、お気に入りの芸術作品が置かれていた。建築と絵画・彫刻による総合的な芸術空間を作り上げたのだ。 ル・コルビュジエ「 エスプリ・ヌーヴォー館」(1925年) Musee des Arts Decoratifs, Paris cMAD, Paris
1920年代の画家たちの大作で、建築と美術の密接な関係を知ろう

ル・コルビュジエは、パリに住んでいた先鋭的なアーティストたちと交流を深め、さまざまな刺激を受けた。なかでも特に親交の深かったフェルナン・レジェの絵画に見られる太い輪郭線とフォルムは、彼の建築美と呼応する。 フェルナン・レジェ《サイフォン》1924年 油彩、カンヴァス 64.8×45.7cm バッファロー、オルブライト=ノックス美術館 Collection Albright-Knox Art Gallery,Buffalo, New York. Gift of Mr. and Mrs. Gordon Bunshaft, 1977 (1977:29) Image courtesy of the Albright-Knox Art Gallery
3人の日本人建築家の力で具現した巨匠の名建築

ル・コルビュジエは、日本の建築界にも絶大な影響を与えた。彼の建築理念と技術を学ぶためにパリのアトリエに入り、弟子となった日本人もいたほどだ。日本で唯一のル・コルビュジエの建築、国立西洋美術館の竣工(1955-1959)では、頻繁に来日できない師匠の代わりに手足となった三人の直弟子、前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の存在が大きい。2016年にユネスコ世界文化遺産に登録されたこの名建築は、師と弟子の共同作業で完成したといえる。「無限成長美術館」を実現させた日本の建築技術も、じっくりと観てほしい。
DATA
ル・コルビュジエ 絵画から建築へ—ピュリスムの時代会期:開催中〜 5月19日(日) 会場:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7) 休館日:月曜日(ただし3/25、4/29、5/6は開館)、5/7(火) 開館時間:9時30分〜17時30分(金・土曜は20時まで。 入館は閉館時刻の 30分前まで)入館料:一般1600円ほか お問い合わせ:ハローダイヤル TEL:03-5777-8600
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[MEN’S EX 2019年4月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)