

前菜はフォアグラのフラン。シャンピニオンの泡スープを纏っていて、スプーンですくい上げると中から煮穴子が現れるという趣向がおもしろい。フレンチの王道的ひと皿をシェフ流にアレンジ。細く刻んだトリュフがアクセントになっている。そして、スープ好きのボクにとっては、何よりのご馳走のブイヤベースがやってきた。玉虫色の皿に美しく配置されたエビ、黒ムツ、真鯛、ヒラメ、ホタテたち。そこに三浦の魚のアラをあえて掃除せず、大胆に濾し出したスープを注ぎ完成する。地のものの魚介のみずみずしい生命力を感じる。特にエビの火入れは完璧で、濃厚なスープとともに口の中で幸せが弾けるようだった。合わせたのはサンセールのロゼ。やや苦味のある辛口のワインとの相性がいい。

メインは岩手の短角牛。鮮やかな三浦ニンジンのピュレが目に飛び込んでくる。生産者のところに直接、赴いて仕入れをお願いしたというこの牛肉。放牧牛ならではのうま味の強い肉質、ただ肥え太らせてベタついたサシが入っているだけのものとはまったく違う。奥歯でかみしめると適度な弾力がある。かといって硬いわけではなく、噛みしめるたびにうま味が口中に広がるのだ。肉に添えられた野菜も素晴らしかった。サトイモとサツマイモで作られたテリーヌのねっとりとした食感がいい。土の香りがする。最近、鎌倉野菜はブランド化して生産が追いつかず、排ガスの多い幹線道路沿いにまで畑が広がっているらしい。その点、シェフが使っている三浦の青木農園の野菜はていねいに育てられているとのこと。


最後はイチゴのローストと飴かけの2種類を自家製のバニラアイスとともにいただく。シェフ自ら抹茶を点てていただき、至福のひと時も終わりに。男前なシェフの繰り出す、繊細且つ豪胆な料理を堪能できた。今度はぜひ夜のコースにトライしたい。23時台の電車に乗れば、その日のうちに東京に帰ることだって決して難しくないのだから。


腹ごなしに歩くことにした。シェ・ケンタロウの向かい側には駆け込み寺として知られている東慶寺があるし、鎌倉までの道沿いには明月院や建長寺、そして鶴岡八幡宮もある。優雅なランチの後ならば観光客がごった返す小町通りを散策しても、のんびりした気分で過ごせそうだ。どうやら北鎌倉の和やか空気は、心に余裕を生んでくれるらしい。
取材・文/藤村 岳
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