夕食はカウンター席で鉄板焼き(写真9枚)
さて、夕食の時間だ。メインダイニングのフレンチイタリアンの「アイランド」と日本料理・鉄板焼の「櫂」がある。やはりおひとり様で楽しめるのはカウンター形式の鉄板焼だろうと思い、事前に予約しておいた。さっきセラーで見たワインをとも考えたが、予算の都合上、グラスでスパークリングワインを飲むことに。
アミューズは天然の真鰯を香味野菜とアップルビネガーに漬け込んだもの。青魚好きとしてはたまらない。ほどよき酸味が食欲をそそる。冷製は地物のほうぼうを湯引きにし、エシャロットのドレッシングをまとわせたもの。天然のとこぶしは3時間かけて蒸し上げ、極上に柔らかい。煮汁で煮詰めたゼリーとともにいただく。
がっしりとした飯塚泰弘シェフは一見、朴訥としていながら実はトーク上手。素材の話や調理法を押しつけがましくなくていねいに説明してくれる。ひとりで食事している身としては、こういうのはうれしい。さあ、鉄板焼の華・活鮑の登場だ。
まだ生きている鮑を鉄板の上に置きながら「鮑のエサは海藻なので、それと合わせるために5月にホテルの前の海でひじきを採ったんですよ」と語り出すシェフ。くねくねと身をよじる鮑に申し訳ない気持ちを抱きつつも、これからのことを思うとよだれが出る。
蒸し焼きにされた鮑は肝を外して、身と切り分ける。貝の中にはシェフ自ら収穫したひじきが敷かれ、その上に鮑が乗る。ソースは焦がしバター。酢橘ををそっと絞って、口に入れると海のうま味が広がる。火通しが完璧で歯ごたえがよく、風味も豊か。ああ、これぞ鉄板焼の醍醐味だ。
続く魚は太刀魚。冬が旬だが、この時期でもかなりうまい。身が薄いので三段に折りたたんで焼くと中はふっくら、外がカリカリに仕上がる。肉は黒毛和牛のシャトーブリアン。近隣の戸田(へだ)で昔ながらの釜揚げ製法によって作られている塩、天城の3年もののわさび、そして風味豊かな青森産ニンニクでシェフが作ったニンニク醤油の3つが付いてくる。シンプルに焼き、シンプルに食らう。
〆には浜名湖産のアサリのガーリックライスを作ってくれた。最初はそのままで、次は出汁でお茶漬けのようにいただくと脂が出汁に染み出し、これまた絶品。先ほどの戸田の塩を使ったアイスクリームで夕餉は終了。地元にこだわり、できるだけ地産地消を心がけている姿勢が随所にうかがわれた。
夕食後は船室をイメージしたバーへ(写真2枚)
夕食後、どうしてもシングルモルトをやりたくなったのでバー「ラ・プラージュ」へ。手に入りにくくなってしまった白州の12年を。鉄板焼の後にこの爽やかでスモーキーな風味がちょうどいい。舐めるように味わい、先ほどの濱田さんと会話する。
ホテルのバーは男のひとり旅で重要な位置を占める。いいバーがあるかないかで旅の印象は大きく左右されるものだ。次に山崎の12年。ピート臭が少なくふくよか。実はこの後、もう1杯秘蔵のウイスキーをいただいたのだが、非売品とのこと。ゆっくり味わいたくて、部屋にグラスごと持って帰り最後の一滴まで楽しんだ。