“大事を始めるには、まず手近なことから始めよ”と教える中国の故事「隗より始めよ」。良い関係を築くには、まず一緒の食事から。達人たちのリアルな会食術を掘り下げる。

今月の”会”の達人

NPO法人「和塾」理事長田中 康嗣さん
博報堂にてコピーライターとして数々の広告やブランディングに携わった後、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する各種事業を行っている。 http://www.wajuku.jp/
価値観が変わって店選びも変わった
かつては広告代理店に勤務し、バブル絶頂期を味わったという田中康嗣さんは、その反動からか、40歳になって伝統を重んじる「和の世界」の奥深さにはたと目覚め、NPO法人「和塾」を設立。会食を仕切る際は、意識的に日本料理店を選ぶようになったという。そんな田中さんが「パーフェクト」と評して信頼を寄せるのが、東京ミッドタウン日比谷にある「南禅寺 瓢亭 日比谷店」。四百年余りの歴史を持ち、京都随一の茶懐石料理を供する老舗の新業態だ。
「近頃はエンターテイメントに走る、いわゆる押し出しの強い店が増えているように思いますが、大人が会話する場として相応しいかどうか……。その点、京都で長らく愛されてきた店は”引きの美学”をきっちり心得ている。付かず離れずの接客に長けているから、客同士の会話に割って入ってくるようなことはないし、それでいて、こちらの動きにそっと気を配り、求めれば完璧に対応してくれます」
個室もあるが、特等席は15代目・高橋義弘さんの手さばきをつぶさに眺められるカウンター席。
「京都と異なる割烹スタイルは貴重。伝統を継承する御主人の端正な仕事ぶりを目にすれば、会話の内容もぐっと深みを増すはずです。海外からのお客様に日本の魅力を感じてもらうにしても、これほどの環境はそうはないと思いますね」
“会”を成功に導くには”引き”の精神を心得た店を選ぶ