
でだ。ここで気になるのは、そんな気難しいロンドンのジュンアシダ(芦田 淳センセイは気難しくないと思いますが)のような大御所デザイナーはいったいどんな服を着ているのか?ということ。これがね、その名も高き1930年代の”イングリッシュドレープスーツ”の真の継承者であるサビルロウの名店「アンダーソン&シェパード」ときたもんだ(拍手!)。
だよね?。わかってらっしゃる。聞けば、ダニエル・デイ=ルイスの父親は、詩人のセシル・デイ=ルイスでアンダーソン&シェパードの顧客だったとか。で、そんな縁もあり、またダニエル自身も英国ファッションに造詣が深く、彼のアイデアがいろいろ盛り込まれたらしい。納得。
映画の中ではダブルブレストのグレイフランネルスーツやディナースーツ。それにツイードジャケットにツイードコートと、アンダーソン&シェパードの真骨頂であるソフトな仕立ての服がふんだんに登場して、ファンとしてはたまりません!
時代設定が’50年代ということで、現代の服地より目方のあるしっかりした英国服地を使用したにもかかわらず、何年も着込んだような肩のラインの丸み、柔らかなラペルの返りときたら、それはもう?
以前、「ハケット ロンドン」のジェレミー・ハケットとアンダーソン&シェパードの話題になったとき、昔、サビルロウで働く職人はイタリア人が多く、クラシコイタリアのあのソフトな仕立てはアンダーソン&シェパードをルーツとしている、なんて話をしてたっけ。
ま、本当かどうかはわからないけど、確かにカチッとした仕立ての服を作るサビルロウのテーラーが多い中、ソフトでスポーティエレガントなスーツを得意とするアンダーソン&シェパードは異端であり、革新的なテーラーでもある。事実、今から20数年前、日本で初めてこの店を取材させていただいたとき、当時の社長のホルジー氏は「これは実験的に作ってみたよ」と、裏地なし、肩パッドなしのアンコンのペンシルストライプのスーツを小粋に着こなしていて、驚いた記憶がある。まだ日本でそんなスーツが話題になる前の話ですよ。しかも、当時のアンダーソン&シェパードは超偏屈な店で、そんなところもレイノルズの性格と重なり、役柄とコスチュームがこんなにマッチした映画もめずらしいのでは。
とはいえ、どんなに気難しい男でも、若い女性に翻弄されるのは今も昔も同じ。男ってダメな生き物ね。
今月のシネマ
『ファントム・スレッド』 (2018)
[MEN’S EX 2018年9月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)