【ビジネス”ART”会話#6】
近頃、エグゼクティブの間でますます話題のアート。知識を広げ、ビジネス会話を広げるためには、アートの「用語」にも精通しておきたい。

イサム・ノグチ《チェイス・マンハッタン銀行プラザのための沈床園》1961-64年
cThe Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Arthur Levine.
“アースワーク”

アーティストはこの人!
イサム・ノグチ Isamu Noguchi
イサム・ノグチ(1904-1988)は詩人・野口米次郎、作家・レオニー・ギルモアの子としてロサンゼルスに生まれる。彫刻、家具、遊具、庭園、大規模な公園、モダン・ダンスの舞台美術など活動は多岐にわたった。どの作品にも貫かれた「戯れ」「遊び」の精神は魅力的。コンスタンティン・ブランクーシから丹下健三、北大路魯山人、谷口吉郎・吉生父子まで、天才たちとの濃密な出会いとコラボレーションでも有名だ。
「地球を彫刻した男」と呼ばれたイサム・ノグチ
イサム・ノグチといえば、和紙をつかった照明《あかり》など、家具デザイナーとしての印象も強いかもしれない。だが彼はほかにも彫刻、巨大な公園や庭園の設計、現代陶芸などの作品を数多く残している。また、1950年に日本に居を構えた後も世界を飛び回り、人間の歴史・生活・社会と、芸術の関係を考え続けた芸術家だ。
今月の用語の「アースワーク」は、1960年代末からアメリカを中心に発展した、アース=地球を直接アートの素材とした芸術のことで、その巨大な作品は、多くが山奥や砂漠、湖といったほぼ人跡未踏の地に制作されている。ストーン・ヘンジやナスカの地上絵のような謎めいた遺跡を彷彿させ、まるで未来から現在を眺めているかのような、時空を超えた宇宙規模のアートだ。そしてノグチは、そのムーブメントが起こるはるか前の1947年に、《火星から見える彫刻》という、地球外から見られることを想定したユニークな作品プランを立てていた。
国内では12年ぶりの本格的な回顧展となる本展は、そんなスケールが大きすぎて実現できなかった作品の模型や動画も紹介する。またそれらの設計図からは、壮大な仕事ぶりの陰にある緻密さも伝わってきて、実に興味深い。人が暮らす空間のためのデザインから、宇宙規模の大きな作品までをも展開した比類なき芸術家、イサム・ノグチ。没後30年を迎える今年、その全容に迫る。
「石は地球の骨だ」と自然の摂理を語るノグチ。石の声を聞き、大地に向き合った最晩年の傑作

cThe Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Akira Takahashi.
ノグチは磨きあげた石彫も有名だが、晩年には自然の中から探りだした石の「なりたい形」に耳を傾け、手を加えない自然な形や表情を意図的に残すようになった。ドシンと重量感のある石の塊には、地球の時間が凝縮されたよう。
ドラマティックな墨線で身体のフォルムと動きを捉えた若き日のノグチのみずみずしい感性

cThe Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Kevin Noble.
20代後半、日本に来る前に訪れた北京であっという間に水墨画をマスター。2ヶ月という短い滞在で、中国の人々をモデルに、毛筆での素描を100点以上描き上げた。身体の輪郭線の大胆な筆跡から、若々しいエネルギーが溢れ出る。
『イサム・ノグチ ─彫刻から身体・庭へ─』
会期:開催中〜9月24日(月)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11時〜19時(金・土曜は20時まで。入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料:一般1400円ほか
お問い合わせ:ハローダイヤル Tel.03-5777-8600
※表示価格は税抜き
[MEN’S EX 2018年9月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)