日本のスーツとフランスのスーツ、作るときの意識の違いとは?

森岡:私は、ディオールなどのモードなスーツは仕事でもよく見る機会がありますが、あまりフランスのビスポークスーツに触れる機会が少ないので、とても新鮮な印象です。一見タイトに見えるのですが、着るとゆったりも感じますよね。フランスと日本で、スーツの作り方や着方への意識は、結構違うものなのでしょうか?
鈴木:これは全然違いますね。日本のスーツは、着物の文化。身体も欧米人と比べて平坦ですから、スーツも着物のように平面に畳める布を立体にする、それによりインテリジェンスを感じさせる、という考え方です。一方、フランス人は日本人と体型も全然違ってかなりハト胸なので、平面的にスーツを作っては胸元が収まらない。なので、お客様のカラダに服を合わせていかなくてはなりません。
森岡:ちなみに、イタリアのスーツとは、どのようなところが違うと思いますか?
鈴木:これもかなり違いがありますね。イタリア人の男性は色気も非常に重視するので、とくにナポリや南イタリアのスーツなどは、スーツ自体が主張するものもあります。しかしフランスではスーツ自体が引き立つというより、「その人の美しさを最大限に影で支える」引き立て役としてのスーツという捉え方が多いです。フランスは昔アフリカにも植民地をたくさん有していたので、今でも大陸の王族たちはスーツを年間200着以上オーダーします。でもそれらはどれも、とても控えめで、スーツが前に出過ぎないものたちです。

森岡:京都っぽいというのかな、まさに「控えめの美学」ということですね! でも、細かいところが非常にディテールも凝っている。ラペルのフィッシュマウスやサイドベンツの後ろのディテールなども、美しく見える工夫がされていますよね。このベンツの部分に折り目があるのは、イタリアスーツなどではあまり見ないディテールです。
鈴木:これは、イタリアの色気とはまったく違うアプローチなんです。ベンツの後ろの布の部分にきちんと折り目を入れると、ジャケットを着たときに後ろがひらひらせず、すっと美しい後ろ姿になります。
フランス流・クラシックスーツの特徴とは?
森岡:なるほど。これは確かに素晴らしいアイディアですね。私も仕事柄、起業の社長さんや政治家の方などにスーツの着こなしのアドバイスをする機会が多いですが、そのときいつも言うのは「スーツは、男性の究極の格上げ服である」ということ。その意味で、モードでタイトなスーツは、カッコいいかもしれないけれど「仕事が出来る、知性、安心感」という視点において少しモノ足りない。タイトというより、「シャープに見える」というのが、ビジネスにおける安心感のあるスマートさだと思います。その意味で、鈴木さんのスーツは非常にシャープさがあって、控えめな美しさがあるので素晴らしいですね。